
事業承継とは何か?基本知識から後継者問題の解決方法も紹介
事業承継とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。会社を後継者に引き継ぐ際に使われます。よく混同されやすい『事業譲渡』との違いも知っておきましょう。そのほか、事業承継を行う際の手順や問題点も解説します。
2021-11-12
事業承継とは?

事業承継とは、会社を引き継ぐことです。似たような言葉に『事業譲渡』がありますが、承継とは内容が異なります。まずは事業承継の意味や、事業譲渡との違いを見ていきましょう。
会社の経営を次の代に引き継ぐこと
『事業承継』は経営者の変更を伴う営為です。親から子供に会社を引き継ぐケースなどが該当します。親族間に限らず、現経営者が認めた相手を次世代の経営者とし会社を譲るのが事業承継です。
経営者の変更そのものだけでなく、引き継ぎの時間も事業承継に含まれます。話し合いや資産の引き継ぎ方法など、新しい経営者がスムーズに会社を継げるよう手続きを進めます。
場合によっては、前経営者が何らかの役職に残りサポートするケースもあるでしょう。地位や役職の引き継ぎは、お互いに納得のいく形を模索することになります。
事業譲渡との違い
『事業承継』は、会社はそのままで経営者が変わります。社長交代のような形で、事業そのものには大きな影響はありません。
次代への引き継ぎに伴って組織再編が行われるケースもありますが、事業承継の手続きとは別の話です。
対して『事業譲渡』は、会社の事業を譲渡することを意味します。一部の事業を他社に譲るケースや、グループ企業に移す作業が事業譲渡です。事業を譲渡すると、株式や金銭が対価として戻ってきます。
どちらも事業を譲ることに変わりはありませんが、対象や方法が変わると考えておきましょう。

中小企業における事業承継の問題点

日本の中小企業は、経営者の高齢化や後継者不足から事業承継をしにくくなっています。会社の廃業が続くと雇用が減少するため、社会全体にとっても大きな問題です。どのような問題点があるのか、具体的に解説します。
経営者の高齢化が進行
中小企業庁の資料によると、2019年度の段階で経営者の年齢は60~70代以上が約6割を占めています。40代の経営者は約15%と若年層の割合が少なく、高齢化が大きな課題です。
数十年前に比べると、経営者の高齢化は進んでいます。日本の中小企業・小規模事業者は、多くの会社が事業承継の問題に直面しています。
高齢になると廃業や休業の可能性も高くなり、事業承継をどのように促進していくかが大きな課題です。昔に比べると健康寿命が徐々に長くなっており、高齢になっても仕事を続けていける経営者が増えていることも、課題に拍車をかけている一因といえます。
次世代への引き継ぎは、事業の活性化に重要な要素といえるでしょう。
■■■ 中小企業庁:2020年版「中小企業白書」 第1部第3章第2節 経営者の高齢化と事業承継 ■■■
後継者が見つかりにくい
会社の経営は誰でもできるものではありません。基本的に、経営者は重要な決断を下します。後継者は誰でもよいというものではなく、能力を備えた者が適任です。
さらに、本人の意向も関わってきます。親から子へ事業承継をしようと考えている場合でも、後継者として事業を引き継ぐ意思が子供になければ手続きはできません。
事業の種類によっては、後継者を見つけるのが困難です。伝統工芸や農業など、若い担い手が育っていない分野もあります。後継者を見つけるには、多くの課題があるのです。

会社の業績・借入金の問題
会社の業績不振や借入金は、後継者にも引き継がれます。経営が悪化した状態の会社を引き継ぎたいと考える人は、少ないでしょう。
後継者がいる場合でも、会社の状態によって事業承継を断念するケースはありえます。引き継ぎが難しい状況になると、廃業の可能性もあるでしょう。
事業承継には、国の施策による税制上のメリットがあります。『事業承継税制』は、相続税や贈与税を優遇するシステムです。しかし、知識不足や手続き上の難しさなどもあり、税理士など専門家への相談も必要になってくるでしょう。
金銭的な問題もあり、事業承継のハードルは高くなっています。会社が順調なうちに、事業承継を考えるのも一つの方法です。

事業承継の種類

後継者の立場によって、承継の方法は少しずつ異なります。親族間での引き継ぎ以外にも、会社を次代に引き継ぐ方法はあるのです。それぞれどのような意味があるのか、承継の種類について解説します。
見極めが難しい「親族内承継」
『親族内承継』は、親から子供、またはそれ以外の親族へ会社を譲る仕組みです。幼少期から会社の引き継ぎを視野に入れ、後継者の育成ができます。
特殊な技能を必要とする事業では、親族間承継が行われるケースが多いでしょう。しかし昔に比べると、現在では引き継ぎの方法が変化してきています。
必ずしも経営者の親族が経営に向いているとは限らないためです。外部から適任者を確保する方が、会社の存続や利益追求に有利になります。状況によっては、親族が適任者であるかの見極めが難しいといえそうです。
資金力が必要になる「社内承継」
すでに社内で活躍する役員や従業員が経営者となるのが『社内承継』です。社内の人員の中から優秀な後継者を探すことができ、能力面では適任者が見つかりやすいでしょう。
しかし役員や従業員は、経営者本人や親族に比べると資金力不足が目立ちます。承継手続きには株式の譲渡が必要になるケースもあり、後継者に資金がないと問題です。
そのほか、親族間の承継に比べると社内で反発が生まれる可能性もあります。後継者を見極めるときは、周囲がスムーズに受け入れられるかどうかもポイントになるでしょう。
適した人材を探せる「第三者承継」
M&Aなどを活用し、会社を第三者に譲るのが『第三者承継』です。親族や従業員以外の第三者に会社を引き継いでもらいます。M&Aプラットフォームの台頭により、事業引継ぎを希望する第三者とのマッチングが以前と比べて簡単で、今盛んになってきている事業承継手段です。
短期間で候補者と出会えることに加え、身近な場所から後継者を募るより、候補者が増えるのが利点です。しかし、理想の後継者が見つかるとは限りません。
売り手と買い手のニーズが一致する必要があり、成立するか否かには譲渡希望価格も大きく関わってくるでしょう。
第三者に会社を譲る場合には、関係者への説明が重要といえます。今までと異なる社風になる場合、従業員や株主の反発にも気を付けなければなりません。
事業承継の進め方と流れ

実際に事業承継を行うには、どのような手続きが必要なのでしょうか。手順と流れを大まかに解説します。引き継ぎの際は、後継者や従業員が困らないよう、事前の準備も欠かせません。
会社の状況把握・後継者の選定
事業承継の前にまずは後継者を見つけましょう。同時に会社の状況把握も進めます。特にM&Aを活用した事業承継では、自社の強みや状況を相手企業に説明する面談も必要です。どのような商品にニーズがあるのか知っていれば、強みとして説明できます。
親族間での承継などでは、後継者が会社の状況を把握しておく必要があります。会社について知ることで、引き継ぎ後の企業成長につながるはずです。
事業承継計画書の作成
経営者と後継者の間で、具体的な事業承継の方法を定めたものが『事業承継計画書』です。計画書には、承継の時期・後継者の設定・承継する事業などを記載します。
親族や社内で後継者を決めるときは計画書を作り、承継の方法を具体化しておきましょう。承継の方法が明確化すると、資産の整理や株式の譲渡も行いやすくなります。
計画書には、承継の時期・後継者の設定・承継する事業・資産状況などを記載するほか、経営者のビジョンや大切にしている考え方、先代から受け継いできた想いなどについても明記します。
関係者に説明・実作業に着手
後継者を定めて、具体的な方法を決めた後は実際の手続きに進みます。まずは会社に関係する従業員・取引先・株主に説明を行いましょう。
経営者の変更が水面下で行われると、関係者に不安を与えてしまい離職や取引停止にもつながります。ある程度引き継ぎの話が固まった段階で、説明の機会を設けましょう。誰がいつどのように経営者になるのか分かれば、周囲にも安心感が生まれます。
また親族の場合は、株式の生前贈与や遺言の作成なども有効な手段です。事前準備として、会社のルール変更や株式を譲渡する時期を決めておきましょう。
第三者承継(M&A)を採用する際のポイント

M&Aで第三者承継を行う際は、経営者が独断で決めずに『株主の理解』を得る必要があります。M&Aのアドバイザーに相談するなどして、『売却のタイミング』を逃さないことも重要です。
株主への説明・整理が必須
M&Aは、株式取得や金銭の受領によって成り立ちます。経営者が勝手に売却できるものではなく、株主がいる場合は許可が必要です。
株主総会でM&Aに反対されると、条件のよい企業が見つかっても売却ができません。経営者本人が支配権を持っているならある程度自由に決定できますが、買収後のトラブルを防ぐためにも、あらかじめ理解を得ておきましょう。
株主の数が多く複雑な状態になっていると、M&Aも成立しにくくなります。反対が多く出そうなときは、事前に株主を整理しておくのも一つの手です。会社が一定金額で株式を買い取るなど、必要に応じて対話しましょう。
売却のタイミングが重要
買収で売り手側が利益を得るには、売却のタイミングが重要です。会社の業績や状況によって、企業価値は変わります。企業価値はそのまま、M&Aの買取価格に反映されます。
売却のタイミングは、買い手が多数現れるときです。赤字がかさみ、企業としての価値が低下すると買い手が見つからないケースもありえます。万が一買い手が見つからない状態になると、廃業のリスクも考えられるでしょう。
後継者不在で他社への売却を考えるなら、ある程度早めの決断が重要です。価値の高いうちに売却できれば、経営者の利益や企業の存続にもつながるでしょう。
事業承継で使える公的補助

事業承継を行う際には、公的なサポートが受けられます。補助金や税制優遇を活用し、資金面の不安を解消しましょう。主な公的サービスと利用できる税制を紹介します。公的補助を使うと事業承継のハードルは下がります。
事業承継・引継ぎ補助金
M&Aを利用して他社に事業を売却するときには、『事業承継・引継ぎ補助金』が使えます。M&Aにかかる経費や手数料が優遇される補助金です。
後継者の不在により事業の売却を考えている場合は、補助金を活用しましょう。さらにM&Aの専門家に仲介を依頼する際は、中小企業・小規模事業者が『M&A支援機関登録制度』に登録済みの業者を利用すると、補助を受けられる可能性があります。
要件は事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトで公開されています。要件は年度によって異なる可能性があるため、最新のものを確認しましょう。手続きに不安があるときは、専門家への相談が確実です。
事業承継税制
『事業承継税制』は、非上場会社の事業を引き継ぐ際に利用できる公的施策です。株式の移転に伴い発生する、贈与税・相続税が猶予または免除されます。
一般措置・特例措置、どちらかの条件を満たした場合、制度の利用が可能です。特例措置は2019年に設定されたもので、一般措置に比べると条件が緩和されています。
以前の条件では利用できないと諦めていた人も、特例措置に当てはまっているか確認しておきましょう。
手続きは各都道府県の窓口に相談しましょう。細かい要件があり個人での手続きが難しいため、税理士や顧問弁護士といった専門家に相談しながら進めるのがスムーズです。

まとめ
事業承継は、会社を次の世代に引き継ぐ際に欠かせない手続きです。最近では経営者の高齢化が進み、後継者不足による問題も表面化しています。
経営者が引退する前に、後継者や会社の今後について考えておきましょう。身近に後継者がいない場合は、外部から人材を募るだけでなく、M&Aを利用する方法もあります。
承継手続きには公的なサポートも用意されており、補助金や税制優遇も受けられます。金銭面で会社の引き継ぎを悩んでいるときは、専門家に相談してみましょう。
事業承継について実際にチャレンジしてみたい方は詳しくやり方について解説しているこちらの記事をご覧ください。


