
後継者育成は早いほどよい?計画の立て方や育成のポイントを解説
後継者育成は多くの企業にとっての課題です。経営者のスキルはすぐには身に付かないため、長期的な計画を策定した上で一歩ずつ進めていく必要があります。サクセッションプランのポイントや育成方法、後継者が見つからない場合の解決法を解説します。
2022-09-15
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企業における後継者育成の重要性

中小企業経営者が『後継者をどう育成するか』という壁に直面するケースは、数多く見受けられます。経営者の高齢化が進む中、後継者の育成がスムーズに進まなければ、廃業や解散につながる恐れもあるでしょう。
企業における後継者育成の重要性について解説します。
なぜ後継者の育成が必要か?
後継者の育成とは、将来の経営者候補を選定し、計画に基づいて育成を行う取り組みです。経営者は遅かれ早かれ引退を迎えます。後継者の育成を行わない場合、企業にはどのような影響があるのでしょうか?
まず考えられるのは、経営者のスキル不足による『経営の悪化』です。経営者の資質がない人物や能力に乏しい人物が企業のトップに就くと、業績悪化を招く可能性があります。
中小企業は経営者が企業全体に及ぼす影響が大きく、経営者によって企業の命運が変わります。特に経営者の人柄やリーダーシップが高く評価されている企業では、経営者の交代と同時に離職者が相次いだり、取引先との関係性が崩れたりするケースも多いものです。
経営者が後継者に理念や思いをしっかりと引き継ぐことで、求心力の低下を未然に防げます。
経営者のスキルはすぐには身に付かない
単なる業務の引き継ぎとは違い、経営者にはさまざまなスキルが求められます。事業に関する専門性はもちろんのこと、企業のトップとしてのリーダーシップや先見性、リスク管理の能力も必要です。
小さな企業ほど経営者に意思決定が集中するため、的確な決断力も欠かせません。こうした能力は一朝一夕で身に付くものではなく、日々の研さんと周囲のサポートが必要です。
『2019年版 中小企業白書』では、『事業を継ぎたいと考えており現経営者との間で合意がとれている』『現経営者から事業を継いでほしいと言われており、おおむね了承している』人物を『後継決定者』としています。
さらに後継決定者のタイプを拡大型・維持型・縮小型に分け、後継決定者が経営者になるために必要だと思う準備期間を調査しています。
いずれのタイプにおいても、5年以上必要と答えた人は40%を超え、拡大型では6~10年と答えた人が約22%にも上っています。
後継者育成には5~10年かかると想定し、経営者は自分の経営能力が衰えないうちに後継者育成計画をスタートさせる必要があるでしょう。
参考:中小企業白書 2019|第2部 経営者の世代交代|第2章:次世代の経営者の活躍|中小企業庁
後継者育成計画の策定フロー

後継者育成の最初のステップは、『後継者育成計画(サクセッション・プラン)』を策定することです。サクセッション・プランでは、幅広い人材から後継者候補を選出し、時間をかけて経営者としてふさわしい人材に育成します。プラン策定の流れを見ていきましょう。
経営方針・理念を明確にする
後継者育成では、実務面を強化していくだけでなく、企業の理念やビジョンを後継者にしっかりと承継していかなければなりません。承継によって、どのような企業を目指していきたいのかを再認識するところから始めましょう。
自社の経営方針・戦略・課題・組織風土などを再確認すれば、後継者に必要な資質やスキル、価値観などが明らかになり、『あるべき後継者の姿』が見えてきます。
また、経営者の交代時期を想定した上で、いつ・誰が・何を行うかを定めた後継者育成計画のロードマップも作成しましょう。
後継者の要件を絞り込む
後継者の具体的な要件を絞り込み、客観的な評価基準を作成するのが次のステップです。
リーダーに求められる資質やスキルは、企業の理念やビジョンに合致していることが前提となるため、詳細は企業ごとに異なります。必要とされる資質・スキルとして一般的に挙げられるのは以下の通りです。
- リーダーシップ
- 粘り強さ
- 冷静さ
- 決断力
- 実行力
- 変化への対応力
- リスク管理能力
- 経営・事業に関する知識
- 事業に関する実務経験
- 税務・財務・法務の知識
- 顧客・取引先との折衝力
育成をする前段階において、全ての要素を満たす後継者候補は少ないと考えられます。要件に優先順位を付けておくと、後継者候補の見極めがスムーズに進むでしょう。
後継者候補を選出する
後継者の育成は数年にわたる長期的な計画です。副社長や役員といった経営層から候補を選ぶ手もありますが、長期的な視野で見れば、必ずしも良い選択とは限りません。
5年後、10年後の変化を見据え、将来性のある人材を選出する必要があります。つまり、これまでの実績や経歴だけで選ぶのではなく、資質やポテンシャルといった要素を加味することが重要なのです。
経営者交代までに十分な時間がある場合は、有望な若手を数十名ほど選抜し、後継者候補の状況をモニタリングしながら、入れ替えを行う方法が有効です。
経営者の引退が間近に迫っている場合でも、1名ではなく数名の候補者を立てるのが望ましいでしょう。
具体的な育成方法を決定する
後継者候補を選出した後は、具体的な育成方法を設定していきます。あるべき経営者の姿と比較して、後継者候補に何が足りないのか、どんなスキルを身に付けてほしいのかを明らかにしましょう。
育成方法は、『社内での育成』と『社外での育成』に大別されます。両者をバランスよく取り入れながら、後継者候補に最適な育成プランを策定することが重要です。
例えば、社内で早くから責任のあるポジションを経験させたり、ハードルの高い業務を割り当てたりすることで、経営者に必要なスキルが徐々に磨かれていきます。
取引先や同業他社での勤務経験を積ませれば、自社にはないアイデアやノウハウが得られるほか、自社に対する客観的な視点も培われるでしょう。
後継者を育成する具体的な方法とは?

後継者育成は『社内での育成』が軸となりますが、知識の幅を広げ、新たな視野を得るには『社外での学び』も欠かせません。後継者に学びの機会をできるだけ多く与えることが、育成を成功させる鍵といえるでしょう。
社内の業務プロセスを理解させる
経営幹部のポジションをすぐに与えるのではなく、各部署をローテーションで経験させ、社内の業務プロセスを理解させるのが理想です。現場感覚が身に付くのはもちろんのこと、以下のようなメリットが期待できます。
- 業務に関連する専門知識が得られる
- 税務・財務・法務の知識が身に付く
- 社内全体を俯瞰する能力が培われる
- 各部署の社員と良好な関係性が築ける
チームリーダー・係長・課長・部長などの各役職を順番に経験させることで、組織におけるそれぞれの役割についても理解が深まります。
経営幹部のポジションで能力を磨く
現場で業務を遂行する能力と経営者としての能力は異なるものです。トップとしての責任感や決断力、対外的な折衝力は、経営に参画しなければなかなか身に付きません。
各部署・各役職での経験を積んだ後は、経営幹部のポジションで『経営感覚』を磨いていきます。経営戦略や事業計画の策定にも積極的に関わってもらい、経営の実務経験を積ませましょう。
選択肢としては、以下のようなものが挙げられます。
- 役員クラスに昇進させる
- 経営企画室を設け、経営企画室長を任せる
- 子会社の経営を任せる
いきなり経営幹部のポジションを任せるのではなく、新規事業の立ち上げを担当させるのも一つの手です。本人の成長の度合いを見ながら、徐々に重要な任務に移行していきましょう。
経営者が理念やノウハウを伝授する
後継者育成の仕上げとして、経営者が後継者に引き継ぎを行います。1対1で話ができる機会を設けた上で、自社の経営理念・ビジョン・思い・経営ノウハウを共有しましょう。
今後の事業計画や経営戦略については、具体的なデータを活用して説明すると、理解度が深まります。
大企業では、後継者候補を社長付や秘書として、経営者の下で一定期間働かせるケースも珍しくありません。思いや経営ノウハウを後継者にしっかり刷り込むためには、経営者と後継者が共に行動する機会を増やす必要があります。
後継者育成塾やセミナーに参加させる
社内での後継者育成と並行し、後継者育成塾やセミナー、ビジネススクールなどに積極的に参加させましょう。
後継者育成塾は、経営者としての人材育成を目的としており、経営に必要な一般知識やスキルを効率よく習得できるのがメリットです。後継者同士の交流を通して、経営に必要なネットワーク(人脈)も築けます。
後継者を対象とするセミナーは、商工会・商工会議所・民間の専門機関などが定期的に開催しています。商工会議所青年部や同業関係者の集まりに参加させることも、視野を広げるのに役立つでしょう。
代表的なビジネススクールには、中小企業基盤整備機構が運営する『中小企業大学校』があります。10カ月間の全日制研修(経営後継者研修)に参加して、経営の基礎を集中的に学ぶのも有効です。
後継者を育成する際のポイント

後継者育成計画の主な目的は後継者を育成することですが、後継者を支えるサポート役の確保も欠かせません。計画は長期戦になるため、どれだけの時間とコストがかかるかも把握しておく必要があるでしょう。
後継者を育成する際に留意しておくべきポイントを解説します。
「経営者の右腕」の確保と育成
事業承継後に直面する問題として、経営者を補佐する人材がいない点が挙げられます。
後継者が経営者に就任した後は、重要な経営判断を自分自身で下さなければならず、孤独を感じたり、思い悩んだりするシーンが増えるでしょう。後継者育成計画には、補佐役となる人材の確保と育成を忘れずに盛り込む必要があります。
『中小企業白書 2019』によると、『後継決定者が経営を補佐する人にどのような能力を求めるか』という問いに対し、事業の拡大を目指す中小企業では以下のような答えが多く挙がっています。
- 事業に関する専門知識と実務経験
- 経営に関する専門知識と実務経験
- 営業スキル
参考:中小企業白書 2019|第2部 経営者の世代交代|第2章:次世代の経営者の活躍|中小企業庁
後継者育成事業や補助金の活用
後継者育成や事業承継には多くのお金がかかります。3年、5年、10年と育成計画が長くなればなるほどコストは増大するため、国や地方自治体の後継者育成事業や補助金の積極的な活用を検討しましょう。
例えば、香川県では中小企業の後継者や青年経営者の育成を目的に、必要な経費の一部を補助する取り組みを行っています。中小企業大学校が実施する各種研修コース受講者は、受講料や往復旅費などの1/2(上限50万円)を負担してもらえるため、活用しない手はないでしょう。
また、国が毎年公募する『事業承継・引継ぎ補助金』には、『経営者交代型』という申請枠があり、条件に合致すれば引き継ぎに要する経費の一部が補助金として交付されます。国や自治体の情報は不定期に更新されるため、小まめに確認しましょう。
参考:中小企業後継者育成事業 | 公益財団法人 かがわ産業支援財団
参考:事業承継・引き継ぎ等補助金(経営革新) | 令和3年度 補正予算 事業承継・引継ぎ補助金|事業承継・引継ぎ補助金事務局
後継者が見つからない場合は?

多くの中小企業では、『親族内承継』や『従業員への承継』が事業承継の既定路線です。親族や従業員の中にふさわしい人材がいない、または育成がうまくいかなかったという場合は、M&Aによる『第三者承継』という選択肢もあります。
M&Aで第三者に会社を承継する手も
M&Aによる第三者承継とは、親族や社員以外の第三者に会社を売却することです。近年は中小企業の後継者不在が深刻化しており、中小企業庁では『中小M&A推進計画』を掲げて、中小企業のM&Aを推進しています。
第三者承継を選択すれば、後継者不在による廃業が回避できる上、優秀な人材を次期経営者として迎えられる可能性が高いでしょう。経営経験を有する人材であれば、育成や引き継ぎに関わる時間やコストを大きく軽減できます。
一方で、経営理念や企業文化に対する理解が乏しい人が経営者になると、社員から反発や不満の声が上がる可能性が懸念されます。譲渡金額や従業員の待遇は買い手との交渉で決まるため、必ずしも希望通りにまとまるとは限りません。
メリットやデメリットを理解した上で、自社にとって何がベストな選択肢かを考えてみましょう。M&Aによる第三者承継や事業承継の進め方については、以下のコラムでも詳しく紹介しています。


まとめ
後継者の育成は事業承継に向けた第一歩です。企業にもよるものの、育成には5~10年の期間が必要になるケースが多く、着手は早ければ早いほどよいといえます。
ロードマップを作成した上で、候補者の選定から具体的な育成方法までをスケジュールに落とし込んでいきましょう。
後継者育成がうまくいかない場合は、M&Aによる事業承継を選択する手もあります。専門家の助言を取り入れながら、納得のいく方法を模索しましょう。