
事業承継にかかる費用は?承継先別の主な費用、税金について解説
事業を親族や従業員、あるいは第三者に引き継がせるには、さまざまな費用や税金がかかります。事業承継を考えている経営者は、事前にどれぐらいの負担が発生するのか確認しておきましょう。事業承継にかかる代表的な費用や税金について解説します。
2022-11-25
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事業承継にかかる費用はいくら?

事業承継とは、事業を親族や従業員、第三者などに引き継がせることで、将来にわたって事業の継続が可能になります。経営者は事業譲渡によって利益を得られる可能性があり、従業員も雇用が維持されるといったメリットがあるでしょう。
ただし、事業承継にかかる税金や手続き費用についても知っておく必要があります。
手続きの費用や税金がかかる
事業承継では、売り手は売却にかかる費用、買い手は相続税や買収費用などを考える必要があります。立場や事業譲渡の性質によって費用や税金が異なるので、承継先ごとに整理して確認しておきましょう。
事業承継で一般的に行われているのは、株式を引き継ぎ先に売却することで、経営権を譲渡する方法です。譲渡側は売却益に対して所得税がかかり、事業を譲り受ける側は株式の取得資金を用意しなければいけません。
また、株式の贈与を受ける場合には贈与税がかかり、親族から相続する場合は相続税の対象となります。
事業承継の種類(承継先の違い)
事業の承継先によって想定すべき費用や税金が違うので、まずは事業承継の基本的なパターンを押さえておきましょう。事業の引き継ぎ先は大きく分けて、以下の三つです。
- 子どもや兄弟・姉妹などの親族(親族内承継)
- 役員や従業員(従業員承継)
- 親族や従業員以外の第三者(第三者承継)
まず考えられるのは、事業を現経営者の親族に引き継がせる方法です。オーナー経営者の子どもや兄弟姉妹、親戚などが事業を引き継ぐパターンは、特に規模の小さな企業や個人事業でよく見られます。
次に多いのが、役員をはじめとした当該企業の従業員に承継する方法です。すでに事業に関わっている人材が引き継ぐため、周囲の賛成が得られればスムーズに承継できます。事業運営にもさほど支障をきたさずに済むのが特徴です。
そして、親族や従業員以外の第三者に引き継ぐ方法が、特に近年は事例として増えています。M&Aと呼ばれる手法で、株式譲渡や事業譲渡、合併などのスキームで事業を承継します。
経営者の身近に引き継ぎ先が見つからない事業も多いため、廃業するよりも第三者への譲渡を検討する事業主が増えている状況です。
親族内承継にかかる費用と税金
まずは親族内承継で想定すべき費用や税金について解説します。親族内承継は、基本的に関係者間で金銭の授受が発生しないため、相続税や贈与税の扱いを押さえておけば問題ないでしょう。
手続きを専門家に依頼する場合の費用
親族内承継にかかる費用は基本的に、税理士や司法書士などに、事業承継の手続きを依頼するのにかかる費用のみです。相続税や贈与税の算出や手続きを自分たちで行うのであれば、他の承継先に比べて最も費用を抑えられる方法といえるでしょう。
ただし、事業の引き継ぎにあたって現経営者を含む親族内でトラブルが発生した場合は、相談や問題の解決のために、弁護士や税理士などへの依頼が必要になる可能性もあります。
相続税や贈与税がかかる
個人事業の場合、親族間で事業の引き継ぎを行えば問題ないでしょう。しかし株式会社の場合は株式譲渡による事業承継が一般的であり、贈与や相続ならば対価は発生しないものの、譲り受ける側には相続税や贈与税が課されます。
相続税は資産の相続人に対して課せられる税金で、相続額が多くなれば、それだけ税率も高くなる超過累進課税制度が採用されています。
さらに納付は現金で行う必要があり、現金以外の資産を相続した場合、納税方法を工夫しなければならないので注意しましょう。
一方、贈与税は資産の譲渡を受けたときに発生する税金で、こちらも超過累進課税制度が採用されているので、贈与額が大きければそれだけ課税額が高くなります。
相続税の税率
相続税は相続資産から債務や非課税財産、基礎控除などを差し引いた後、課税対象となる資産の総額を計算します。そこから、各相続人の相続分に分けて一定の税率をかけ、納付すべき税金の総額が算出される仕組みです。
各相続分に対する税率は、以下のように取得金額に応じて税率が変わる超過累進課税が適用されます。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税の税率と相続時精算課税
贈与税の課税方式には『暦年贈与』と『相続時精算課税』の二つがあります。
暦年贈与は原則的な課税方式で、年間の受贈額が110万円以下の場合は非課税です。例えば総額300万円の贈与を受けた場合、190万円のみが課税対象となります。税率は以下の速算表の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
ただし、父母や祖父母など直系尊属から贈与を受けた場合は、以下の特例税率が適用されます。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
一方、相続時精算課税は、将来的な相続の発生を前提とした課税方式です。税率は一律20%ですが、経営者が子どもや孫に贈与を行う際、2,500万円までの財産に対する贈与税が非課税になります。
そのため、事業承継にまつわる税金を無料にできる可能性があります。制度を利用するには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に申告し、届出書を税務署に提出する必要があるので、忘れないようにしましょう。
しかし、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。
出典: No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
従業員承継にかかる費用と税金

次に従業員承継にかかる費用や税金について解説します。従業員承継の場合、事業を引き継ぐ人が当該企業の株式や資産を買い取るのが一般的なので、購入資金が必要です。
承継側は株式の購入資金が必要
株式会社において、現経営者が役員をはじめとした従業員に事業を承継させる場合、株式譲渡による引き継ぎが一般的です。そのため、事業を引き継ぐ従業員は、株式を購入するための資金を用意しなければいけません。
事業を承継するためには、少なくとも発行済み株式の過半数を取得し、経営権を得る必要があります。さらに、単独で株主総会の特別決議を成立させるためには、2/3以上の株式の取得が求められます。
それだけの株式を購入するのは個人では難しく、十分な資金調達が難しい場合が多いのが実態です。
株式取得のための資金調達法
事業承継のために従業員が株式を購入する場合の資金調達方法としては、まず日本政策金融公庫による融資が挙げられます。
同公庫による融資は個人名義では受けられませんが、経営承継円滑化法に基づき都道府県知事の認定を受ければ、融資を受けることが可能です。
経営者側も、当該従業員が株式を取得できるように、給与の増額や分割払いを可能にするといった支援を検討してみましょう。
なお、オーナー経営者が自社株式を無償で譲渡する方法もありますが、経営者自身が対価を得られないのはもちろん、譲渡される側も贈与税が課せられる可能性があります。
状況によって税金の扱いが変わるので、事前に税理士をはじめとした専門家に相談することをおすすめします。
経営者側の譲渡益に所得税がかかる
株式の譲渡によって事業を承継する場合、経営者は、譲渡対価から取得費用を差し引いた利益分に所得税が課されます。
税率は所得税および復興特別所得税が15.315%、住民税が5%の合計20.315%です。売却時期によっては納税までに1年近くの期間が空くので、納付を忘れないように注意しましょう。
第三者承継(M&A)にかかる費用と税金

続いて第三者承継にかかる費用や税金を解説します。選択するM&Aのスキームによって税負担が異なるので、ここで基本的な点を確認しておきましょう。
仲介業者への手数料が発生
M&Aによって事業を第三者に承継する場合、一般的には仲介業者やマッチングサービスなどを利用するケースが多いでしょう。
仲介業者を利用する場合には、相談料に加えて着手金や成功時の報酬などが発生しますが、近年は完全成功報酬型の仲介業者も増えています。
成功報酬型は、承継先が無事に見つかり引き継ぎが完了するまで、料金は発生しません。また多くの場合、承継する事業規模によって報酬額が変動するシステムになっています。数百万円から数千万円が仲介手数料の相場となっています。
一方マッチングサービスの場合、事業主が自ら相手を探す必要があるものの、仲介業者よりも料金が安く、登録料が無料のものも数多くあります。手数料を安く抑えたいならば、マッチングサイトやM&Aプラットフォームがおすすめです。
なお、M&Aの詳しい流れや手続きに関しては、以下のページで説明しています。こちらも参考にしてください。

スキームによって税負担が異なる
M&Aによる事業承継は、採用するスキームによって課される税金の種類や負担が変わります。M&Aの代表的なスキームである株式譲渡の場合、株式を売却する現経営者へ、上記の通り譲渡益に対して約20%の所得税が課されます。
一方、株式ではなく事業の一部あるいは全部をそのまま売却する場合は、経営者個人の資産を売却するわけではありません。
企業の一部を譲渡する形なので、売却益は企業の利益です。もし譲渡する事業の資産と負債の差額よりも譲渡金額が大きかった場合、その利益は法人税の対象となり、実効税率は約30%となります。
また譲渡する資産のうち、消費税の対象となるものに対しては、2022年の時点で10%の消費税がかかる点にも注意が必要です。ただ、実質的には消費税は買い手が負担し、その負担分を売り手が税金として納める形が一般的です。
事業承継にかかる税金を確認

事業承継にかかる税金としては、上記のように相続税や贈与税、あるいは所得税や法人税が挙げられます。それに加えて、以下のような税金も発生する可能性があるでしょう。
登録免許税や不動産取得税にも注意
事業承継により、オフィスや工場など不動産の所有権が移転する場合、登録免許税や不動産取得税の負担が発生します。
登録免許税は不動産の登記や資格登録などの際に納付する税金で、登記の対象や種類によって税率が異なります。例えば、相続のための名義変更登記に対する登録免許税率は0.4%です。
不動産取得税とは、土地や建物の取得にかかる税金です。原則として評価額の3%の税率で、住宅以外の家屋の場合は4%となります。ただし、後述する事業承継税制の条件に該当すれば、土地や建物は2.5%、住宅以外の家屋は3.3%に税率が緩和されます。
事業承継で発生する税金一覧
事業承継で発生する可能性のある税金を、以下にまとめました。概要を確認しておきましょう。
税金の種類 | 課税される条件 | 対象者 | 税率 |
相続税 | 事業主が亡くなり、資産を相続した場合 | 事業の譲受側 | 超過累進課税で資産額により変動 |
贈与税 | 事業主から資産を譲り受けた場合 | 事業の譲受側 | 超過累進課税で資産額により変動(※相続時精算課税の場合は一律20%) |
所得税 | 株式譲渡によって譲渡益を得た場合 | 事業の譲渡側 | 株式の場合は約20%(※住民税5%を含む) |
法人税 | 事業譲渡の際、譲渡資産と負債の差額よりも譲渡金額が大きかった場合 | 事業の譲渡側(法人) | 約30%(※実効税率) |
消費税 | 消費税の対象となる資産を譲渡する際に発生 | 事業の譲渡側(実質的な負担は譲受側) | 10%(2022年時点) |
登録免許税 | オフィスや工場など、事業に関する不動産の登記変更の際に発生 | 事業の譲受側 | 合併:0.2%、会社分割:0.4%、その他:1.6%(※事業承継税制適用の場合) |
不動産取得税 | 事業承継に伴って不動産を取得した際に発生 | 事業の譲受側 | 土地や建物:2.5%、住宅以外の家屋:3.3%(※事業承継税制適用の場合) |
費用負担を軽減するためにできること

事業承継にまつわる出費を軽減するために、利用できる制度やサービスを紹介します。できる限り費用や税金の負担を抑えるために、利用できる制度がないか確認しましょう。
事業承継・引継ぎ補助金を利用する
事業承継やM&Aに関して、発生する費用の一部を補助してもらえる制度として、『事業承継・引継ぎ補助金』があります。
これは、事業承継をきっかけに新たな経営施策を始める企業や、事業の再編や統合によって経営資源を引き継ぐ企業を支援するものです。
事業承継や経営資源の引き継ぎにかかる費用の一部に対して補助が受けられるので、条件に該当する企業は積極的に活用しましょう。詳しい条件や補助金額などは、年度によって変動します。詳しくは以下の公式サイトで確認しましょう。
事業承継税制にも注目
事業承継税制とは、中小企業の事業承継を支援する目的で創設されたもので、非上場株式を取得して事業を承継した際、納税の猶予や免除が受けられます。贈与税や相続税の納付が猶予されるため、事業承継の金銭的な問題をクリアしやすくなるでしょう。
さらに、上記のように登録免許税や不動産取得税も一部軽減されるので、これから事業承継を考えているのであれば、利用を検討したい制度です。
ただし、同制度を活用するには、2024年3月末日までに都道府県庁に『特例承継計画書』を提出し、認定を受けなければいけません。事業承継税制に関しては、注意点を含めて以下の記事で解説しています。こちらも確認してみましょう。

専門家への依頼費用を比較しサービスを選択
M&Aの仲介業者へ支払う報酬を除いて、事業承継の手続きで最も高額となるのは、司法書士や税理士、弁護士などに支払う報酬です。
専門家によって料金体系やサービスの内容が異なるので、事前に複数の業者を比較検討することが大事です。自分で手続きできる分を除き、一部のみを任せるようにすれば費用を抑えられるでしょう。
また、M&Aで事業承継するなら、顧問税理士や金融機関などに相手を紹介してもらうなどすれば、手数料がかからない場合もあります。仲介業者やマッチングサービスを利用するなら、できるだけ費用のかからないところを選ぶといった工夫も必要です。
M&Aプラットフォーム『TRANBI』なら、登録無料で幅広い業種のM&A案件が掲載されています。譲渡側は案件掲載から交渉、成約まですべて無料、譲受側は無料で案件の閲覧・交渉の申し込み(初回メッセージのみ)が可能なので、まずは気軽に登録してみましょう。人気の月額有料プランに入れば、他社では必要な成約手数料までもかからず利用できます。
まとめ
事業承継には、立場や承継方法によって、さまざまな費用や税金がかかります。
それぞれどのような負担が発生するか整理し、どれぐらいの資金を準備すればよいか確認しておきましょう。費用負担を軽減できる補助金や税制もあるので、積極的に活用することが大事です。
M&Aによる事業承継を考えているならば、費用を安く抑えられるマッチングサービスやM&Aプラットフォームの利用がおすすめです。うまく活用して、理想的な引き継ぎ先を見つけましょう。