
M&Aとは?基本知識から種類やメリット、成功のポイントなどを解説
今後の成長戦略や事業承継の手段として、M&Aを選択する企業が増えています。売り手・買い手には、どのようなメリットがもたらされるのでしょうか?実際のM&A事例を挙げながら、M&Aの種類や成功のポイントを解説します。
2021-11-11
「TRANBI」は、10万人以上のユーザーを抱える国内最大級のM&Aプラットフォームです。案件の掲載数は常時2,500件以上、未経験者によるM&A成約率は約75%に上ります。
無料の会員登録後は、M&A案件の最新状況が自由に閲覧できるほか、希望の事業を地域や業種、予算で検索可能です。気になる事業があれば、事業詳細をみて交渉をスタートできます。
M&Aとは?言葉の定義と概要

『M&A』は、合併(Mergers)と買収(Acquisitions)の頭文字で、直訳すると『企業の合併と買収』です。M&Aと『組織再編』との関わりについても理解を深めましょう。
二つ以上の企業の「合併(Mergers)」

M&Aの『合併(Mergers)』とは、二つ以上の企業が契約によって統合され、一つの法人格になることです。
合併で法人格がなくなる会社は『消滅会社』、消滅会社から権利を引き継ぎ、存続を続ける会社は『存続会社』と呼ばれます。
業界再編を促すために、独立した企業同士が合併することもあれば、経営の効率化や業績不振の打開を目的に、グループ企業同士が合併するケースもあります。合併の主な形態は、『新設合併』と『吸収合併』の2種類です。
- 新設合併:合併で消滅する企業の全ての権利義務を新たに設立する会社に承継させる形態
- 吸収合併:1社が他の企業を吸収して存続する形態
他社の経営権や事業を買い取る「買収(Acquisitions)」
『買収』とは、ある企業が他社の経営権を取得すること、あるいは事業を買い取ることを指します。
株式会社は株式を発行して資金を集め、その資本によって運営されている団体です。株主は『持ち株比率』が高ければ高いほど会社の重要な意思決定に強く関与できる仕組みで、過半数の株式を取得すると、一般的には『経営権』が取得できます(子会社化)。
近年は個人が飲食店やECサイト、美容系サービスなどの事業を買収するケースも多く見受けられます。
合併と買収は似ている部分がありますが、仕組みは大きく異なります。合併では必ず1社以上の法人格が消滅しますが、買収では経営権が移るだけで売り手の法人格は存続します。
組織再編との違いは?

組織再編とは、事業の合理化や資源の有効活用、企業内の問題解決などを目的に、『組織を根本的に編成し直すこと』です。
数あるM&Aのスキームのうち、主に『合併』『会社分割』『株式交換』『株式移転』が、会社法上の組織再編行為に該当します。
株式譲渡は株主の変更のみで組織の根本的な編成は変化しないため、一般的には組織再編には含まれません。
組織再編の形態は、組織再編税制に適合した『適格組織再編』と適合しない『非適格組織再編』の2種類があり、前者は税制上の優遇措置が受けられるのが特徴です。
M&Aの代表的分類

M&Aの種類には、大きく『水平型』と『垂直型』があり、目的や期待される効果が異なります。さらに、買収する会社と買収される会社の関係性は『友好的』と『敵対的』の2パターンに大別されます。
水平型M&Aと垂直型M&A
『水平型M&A』とは、『同業他社』との合併や買収によって、本業でのシナジー効果を狙うM&Aです。
同業者を買収すれば、事業エリアが拡大し、市場での競争力が高まります。知名度アップや仕入れコストの削減といった面でも恩恵を享受できるでしょう。
『垂直型M&A』は、サプライチェーンの川下または川上にある企業を統合することで事業拡大を狙うM&Aです。例えば川下にある鉄鋼メーカーが、川上の鉄鋼石採掘会社を買収すれば、原材料の調達から販売までを一貫して行えるようになります。
『取引コストの削減』『オペレーションの効率化』『資材の安定供給』といったメリットにより、強固な経営基盤の構築が可能となるでしょう。
友好的M&Aと敵対的M&A
『友好的M&A』とは、買収対象会社の経営陣の賛成を得た上で友好的に合併や買収を行うことを指します。
一方の『敵対的M&A』は、経営陣の意向を無視して行うM&Aです。株式会社では、総株主の議決権の過半数を獲得すれば会社を支配できるため、『株の買い占め』や『公開買付け(TOB)』などの手段を取る場合があります。『会社の乗っ取り』というイメージがありますが、違法ではありません。
日本で実施されるM&Aの大半は友好的で、敵対的M&Aは少ない傾向があります。敵対的M&Aは友好的M&Aよりも労力や時間がかかる上、成功率もそれほど高くないのが実情です。
なお、中小企業のほとんどは株式譲渡制限会社であり、株式譲渡の際は取締役会または株主総会の承認を得なければなりません。敵対的買収は成立しないと考えてよいでしょう。
M&Aのメリットは?

企業の成長戦略において、M&Aは一つの選択肢に過ぎません。中小企業がM&Aを選ぶ背景には何があるのでしょうか?買い手と売り手の両方の視点から、M&Aのメリットを解説します。
買い手側のメリット
M&Aはよく『お金で時間を買う行為』と例えられます。既に完成したビジネスモデルを自社に取り込めるため、一から事業を育てるよりもスピーディーにビジネスを展開するのです。
買い手が享受できる具体的なメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 既存事業とのシナジーを生み出せる
- 新規事業をスムーズに始められる
- 既存事業の競争力を高められる
- 事業コストの削減を期待できる
既存事業とのシナジーを生み出せる
多くの企業は既存事業とのシナジー効果を期待して、M&Aを実行します。シナジー効果とは、二つ以上のものが相互に作用し合い、1+1=2以上の成果や利益を生み出す『相乗効果』のことです。
自社と同業種の会社を買収すれば、売り手が有する取引先や販路、人材などの経営資源を活用して、市場支配力の向上を目指せます。ノウハウの統合により、商品の付加価値を高めることも可能でしょう。
異業種を買収すると、事業の多角化が実現します。一見、シナジー効果が薄いように思えますが、既存事業の強化と新たな収益源の獲得が同時にかなうケースもあるのです。
例えば、子ども服を取り扱うアパレル会社がフォトスタジオ事業を買収した場合、フォトスタジオが新たな収入の柱になるだけでなく、子ども服事業とのコラボレーションも可能となるでしょう。
新規事業をスムーズに始められる
M&Aのメリットは、優秀な人材や企業が蓄積してきたノウハウをそのまま獲得できる点です。育成にかかる時間とコストを大幅に削減できるため、新たな市場にスムーズに参入できます。
現在はデジタル・テクノロジーの発展により、ビジネスサイクルが高速化しています。一から新規事業を手掛けていたのでは市場のスピードについていけず、先行した企業に大きく差を付けられてしまうでしょう。
積極的な買収で事業の多角化を遂げた企業として、『RIZAP』が挙げられます。現在は急速なM&Aが経営を圧迫する結果となっていますが、メディア・住宅・アパレル・ヘルスケアなど複数の企業を買収し、一時はグループを急拡大させました。
既存事業の競争力を高められる
M&Aによって新規事業に参入する企業もあれば、『既存事業』を強化して市場での競争力を高めようとする企業も少なくありません。
業界によっては、少子高齢化や人口減少などの影響で市場規模が縮小し、現状維持では将来的成長が見込めない企業が存在します。
『同業他社』を買収すれば、その会社が持つ顧客リストを活用できたり、新たな販路を獲得できたりといったメリットを享受できます。技術やノウハウ、優秀な人材も獲得できるため、市場での競争力が増すでしょう。
必要な人材や技術力を効率的に獲得できる
企業が新たな分野に進出する上では、技術の習得と人材の育成が欠かせません。他社を買収すれば、売り手が有する優秀な人材や技術力、知的財産などを効率的に獲得できます。
特に、ITや介護、医療、建築などの人手不足が深刻化する業界では、有資格者や技術者の獲得を目的としたM&Aが増加傾向にあるようです。
採用市場では、有能な人材の奪い合いで多くの企業が火花を散らしています。他社を買収すれば、そこで働く人材を一気に確保できるため、採用市場で人材を探すよりも合理的なのです。
事業コストの削減も期待できる
同業種によるM&Aで事業規模が拡大した場合、スケールメリットが働いて『事業コストの削減』につながる可能性があるでしょう。
『スケールメリット(規模の経済)』とは、同種のものを多く集めることによって得られる効果や優位性を意味します。
例えば小売業界の場合、他社の買収で店舗数が増加し、原材料の仕入れ数量が一気に増える可能性があります。一括で仕入れをすれば、卸売業者との値引き交渉が有利に進み、原材料価格を大きく引き下げられるかもしれません。
売り手側のメリット
近年は、中小企業によるM&Aが増加傾向にあります。後継者不足で事業が存続できず、第三者への事業承継を選択するオーナーが増えているためです。M&Aが売り手にもたらすメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 事業の承継先を見つけられる
- 従業員の雇用を維持できる
- コア事業に集中できるようになる
- 個人保証から解放される
- 創業者利益を獲得できる
事業の承継先を見つけられる
中小企業庁のデータによると、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人で、そのうち約半数は後継者が見つかっていません。
経営者としては、これまで守り続けてきた会社を廃業するのは名残惜しく、従業員を解雇するのも心苦しいというのが本音でしょう。
M&Aを実施すると、後継者が不在でも事業の継続を図れます。十分な経営資源とノウハウのある承継先が見つかれば、身内や従業員に引き継ぐよりも事業が大きく拡大する可能性があります。
参考:中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題|中小企業庁
従業員の雇用を維持できる
廃業を選択すると、そこで働いていた従業員が職を失うことになりますが、M&Aの事業承継では従業員の雇用はそのまま維持されるのが一般的です。
経営者として、長年働いてきた仲間たちを路頭に迷わせずに済むのは大きなメリットでしょう。基本的に、取引先との関係もそのまま継続します。
上場企業や大企業の傘下に入れば、従業員の労働環境や待遇はそれまでよりも改善するかもしれません。自社だけでは実現できなかったキャリアプランが描けるようになったり、活躍のチャンスが与えられたりする従業員も増えるでしょう。
コア事業に集中できるようになる
M&Aでは、事業の一部や特定部門を指定して譲渡することが可能です。会社全体を売却対象とする株式譲渡とは異なり、一部を残して会社は存続されます。
事業の一部を譲渡するメリットは、その企業が最も力を注ぐ『コア事業』に集中できる点です。
事業を多角的に展開している企業では、業績が伸び悩む部門が出てきます。ビジネスのライフサイクルで既に成熟期を迎えたものはそこで成長がストップし、新たな利益を創出するのは困難でしょう。
採算が取れない事業や非中核事業を手放せば、浮いたリソースや人材を必要な事業に集中的に投下できます。
個人保証から解放される
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者やその家族などの『個人』が会社の連帯保証人になるケースがあります。この仕組みは『個人保証』と呼ばれ、会社が倒産した場合には、経営者が会社の借金を肩代わりしなければなりません。
売り手が有する経営資源が魅力的な場合、「個人保証を引き継いででも会社を買収したい」という買い手が現れる可能性があるでしょう。
また、事業承継型のM&Aにおいては『経営者保証ガイドライン』が示す要件を満たせば、経営者の個人保証のみを解除できるケースがあります。
なお、ガイドラインは『中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルール』として位置付けられており、解除や変更が可能かどうかの最終判断は金融機関が行います。
創業者利益を獲得できる
創業者利益とは、株式譲渡によって創業者(株主)が得られる『譲渡益』のことです。株式譲渡の場合、将来の超過収益力や価値を時価純資産額に上乗せした金額が譲渡価額となります。
創業者が事業資金として投資した株式資本と株式の売却額の差額が大きければ大きいほど、多くの利益が得られると考えてよいでしょう。
まとまった資金が一度に手に入るため、会社売却後に別の事業をスタートさせる人も少なくありません。個人の借金返済に充てたり、リタイア後の生活資金に充当したりと、使い道は自由です。
M&Aのデメリット・注意点

多くのメリットが期待できるM&Aですが、想定していたシナジー効果が得られなかったり、希望価額で譲渡できなかったりと、マイナスの結果につながるケースも多いのが実情です。M&Aで懸念されるデメリットや注意点を解説します。
買い手側のデメリット・注意点
企業の買収には、まとまった資金が必要になるケースがほとんどです。M&A戦略が不十分な場合、投資資金を回収できないばかりか、組織内部の混乱を招く恐れがあります。
M&Aを実行する前に、以下のようなデメリットやリスクを想定し、対策を立てておく必要があるでしょう。
- 想定していた利益が得られない可能性がある
- 事業の統合に失敗する恐れがある
- 必要な人材が流出する場合もある
想定していた利益が得られない可能性がある
多くの買い手はシナジー効果を期待してM&Aを行うものの、期待する効果が必ず得られるとは限りません。
売り手のシナジー効果を過信したり、実現可能性を見誤ったりすると「想定していた利益が得られなかった」「大きな変化が起こらなかった」という失敗につながります。高値づかみとなり、投資資金の回収が困難になる可能性もあるでしょう。
組織が拡大すればスケールメリットが得られますが、意思決定の遅れや不十分な連携により、企業が弱体化するリスクがある点にも注意が必要です。
事業の統合に失敗する恐れがある
M&Aの成功は、買収後の統合プロセス(PMI)にかかっているといっても過言ではありません。M&A成立後は、経営・事業・業務・意識といったさまざまな側面を統合させる必要がありますが、方針や計画が不十分な場合、現場に大混乱が生じます。
システムが複雑化して業務効率が下がったり、異なる企業風土の従業員同士が対立したりすれば、事業を軌道に乗せることは困難になるでしょう。
M&Aの成立はゴールではなくスタートです。「すぐに期待通りの結果が出るわけではない」ということを念頭に、早い段階から統合作業に取り組む必要があります。
必要な人材が流出する場合もある
M&A成立後に優秀な従業員の離職が相次ぎ、重要な経営資源を失ってしまうケースもあります。人材が流出する要因としては、従業員間でのあつれきや労働環境の変化、人事制度への不満などが挙げられるでしょう。
買収直後、多くの従業員は今後の組織体制がどうなるのか様子見しています。キーパーソンとなる従業員が離職すれば、芋づる式に離職者が増えていく可能性があるため、人材流出の防止策を考えておかなければなりません。
経営者が替わったことで主要取引先との関係性が悪化し、事業の存続が難しくなったという話も多いのです。
売り手側のデメリット・注意点
会社や事業を『よい買い手』にできるだけ早く譲り渡し、セカンドライフをスタートさせたい経営者も多いはずです。
実際のところ、『安く買い叩かれる』『大切な取引先との縁が切れる』といった理由から、M&Aを後悔する経営者も少なくないのが実情です。
売り手が想定しておくべきデメリットや注意点として、以下が挙げられます。
- 希望する価格で譲渡できない場合がある
- 既存の取引先が離れてしまう恐れもある
- そもそも譲渡先が見つからないケースもある
具体的にどのようなデメリットや注意点があるのか、詳しく見ていきましょう。
希望する価格で譲渡できない場合がある
M&Aにおいて、売り手は自社価値を高く見積もる傾向があります。一方の買い手は「できるだけ安く買収したい」と考えているため、両者の希望価格に差が生じるのが一般的です。
他社にはない優れた技術やノウハウがあれば、売り手の希望価格がそのまま受け入れられますが、大抵の場合は価格交渉を経て、両者が納得できる落としどころを見つけなければなりません。
希望価格で譲渡できない可能性があることを理解した上で、売却の是非を判断しましょう。
既存の取引先が離れてしまう恐れもある
M&Aで経営者が替わると、既存の取引先が離れる恐れがあります。売り手経営者の人柄で関係性が成り立っていた場合、契約条件の変更や終了を検討する取引先も出てくるでしょう。
売り手の取引先は、買い手にとって重要な経営資源です。主要取引先との契約が続行できないとなれば、企業価値の毀損は免れません。
一方で、M&A成立後は買い手主導の経営となるため、売り手が地道に築き上げてきた取引先との関係性を買い手が断ち切ってしまう可能性も考えられます。依存度合いによっては、経営に大きな打撃を受ける取引先も出てくるでしょう。
そもそも譲渡先が見つからないケースも
ここ数年は、中小企業のM&Aが右肩上がりに増えていますが、会社を売りに出せば必ず買い手が現れるわけではないのが現実です。買い手が何年も見つからなければ、廃業を選択せざるを得ない会社も出てくるでしょう。
よい買い手をできるだけ早く見つけるには、M&A仲介業者やアドバイザー、事業承継・引継ぎ支援センターなどのサポートが欠かせません。
『TRANBI(トランビ)』のような自分で会社や事業の売却に挑戦でき、買い手探しができるM&Aプラットフォームも活用しつつ、主体的に自社の魅力をアピールしていく必要があります。
一般的なM&Aの流れ

中小企業のM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡のスキームが選択されるケースが大半です。手続きの詳細は異なりますが、全体の流れはほぼ同様と考えてよいでしょう。どのような手順でM&Aが展開していくのか解説します。
M&Aの検討・方針の決定
M&Aを進めていくうちに、M&Aそのものがゴールであると錯覚してしまう経営者は少なくありません。『M&Aで何を実現したいのか』『なぜM&Aでなければならないのか』を明確にした上で、自社に合ったM&A戦略を策定しましょう。
売り手は経営状況を正確に把握すると同時に、交渉の切り札となる『自社の強み』の洗い出しを行います。最終フェーズで問題が発覚すると交渉が決裂するため、簿外債務の有無やその他の財務リスクは念入りに調べておきましょう。
候補の絞り込み・決定
本業とM&Aを並行して進めるとなると、自社だけで案件探しをするのは困難です。M&A仲介業者やM&Aアドバイザーと契約を結び、案件探しや交渉のサポートを得ることも選択肢の一つです。ただ手数料が数百万円~数千万円と高額なため中小企業や個人の場合、依頼しにくいのが実情です。
中小企業や個人のM&Aが活発化する近年は『M&Aプラットフォーム』を利用する人が増えています。売り手と買い手がオンライン上で直接交渉できるシステムで、『手数料が安い』『案件数が豊富』『成約までの期間が短い』といったメリットがあります。
『TRANBI』は会員数11万人以上を誇る業界最大級のM&Aプラットフォームです。無料会員登録をして、どのような案件があるのかチェックしてみましょう。
トップ面談・条件交渉
マッチング成立後のトップ面談では、価格や条件についての本格的な交渉は行わないのが一般的です。経営理念や事業の方向性、人柄などを見極める機会と捉えましょう。
最初に信頼関係が築かれると、その後の交渉が円滑に進みます。相手の質問にしっかりと答えられるように、『ビジョン』や『M&Aで期待すること』を明確にしておくのがポイントです。
面談後は、条件や価格などの取り決めを行います。
基本合意書の締結
『基本合意書』は交渉で合意した基本的な内容を記したもので、当事者間の認識を明確にし、その後のデュー・デリジェンス(買収調査)をスムーズにする目的があります。以下は基本合意書に記載される内容の一例です。
- M&Aのスキーム
- 譲渡価格・譲渡日
- デュー・デリジェンスの実施
- スケジュール
- 独占交渉権の有無
『独占交渉権』は、買い手が売り手と独占的に交渉できる権利です。基本合意書に法的拘束力はありませんが、独占交渉権には法的拘束力を持たせるのが一般的です。そのため、売り手は交渉期間中に第三者と交渉ができません。
デュー・デリジェンス(DD)
デュー・デリジェンスは、買い手が売り手に対して行う買収調査です。弁護士や税理士といった専門家の協力の下、経営・財務・税務・法務などのあらゆる側面から売り手を調査し、買収に適した会社かどうかを判断します。
デュー・デリジェンスを疎かにすると、M&A成立後に簿外債務や労務問題などが発覚し、取り返しのつかないトラブルに発展するケースがあります。
全てのリスクを洗い出せるわけではないものの、企業価値をできるだけ正確に判断するためには避けて通れないプロセスです。
最終契約・クロージング
デュー・デリジェンスの結果を基に最終交渉をし、双方が合意に至れば『最終契約書(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書)』を締結します。以下は、契約書に盛り込まれる事項の一例です。
- 取引内容
- 役員や従業員の待遇
- クロージング前提条件
- クロージング日
- 表明保証
- 誓約事項
- 表明保証に違反した際の補償内容
- 売り手経営者の個人保証の取り扱い
クロージング日までに双方が前提条件を履行し、買い手から売り手に譲渡対価が支払われてはじめてM&A成立です。株式譲渡の場合は、株主名簿の名義書換を以て譲渡が完了します。
M&Aの代表的なスキーム

M&Aでは『スキーム(scheme)』という用語がよく登場します。組織・やり方・計画案・一覧表などさまざまな意味を持つ言葉ですが、M&Aにおいてはどのような意味合いで用いられているのでしょうか?
M&Aのスキームとは?
M&Aスキームとは、『M&Aで用いる手法』や『M&Aの一連の流れ』を意味する言葉です。買収や合併に関するスキームは多数存在し、どれを選択するかによってメリット・デメリット・手続き方法が異なります。
代表的なスキームとしては下記が挙げられます。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 会社分割(新設分割・吸収分割)
- 合併(新設合併・吸収合併)
- 株式交換
- 株式移転
- 第三者割当増資
- 資本提携・業務提携
『第三者割当増資』は、新規発行株式を特定の第三者に引き受けてもらうスキームです。割当先は取引先などの縁故者になるケースが多いことから、『縁故者割当増資』とも呼ばれています。
第三者割当増資のメリットは、会社の資金が増え牢固な財務基盤の構築が期待できる点です。縁故者との協力関係を築くことで、敵対的買収を防ぐ目的もあります。
M&Aで用いられる代表的なスキームを詳しく見ていきましょう。
株式取得
『株式譲渡(株式取得)』とは、会社の経営権取得を目的とするスキームで、売買対象は『株式』です。売り手は保有株式の全てまたは一部が譲渡できますが、中小企業のM&Aでは株式全てを譲渡するケースが多いでしょう。
譲渡後は『経営権』や『会社の所有権』などが買収先に移転します。経営者が代わるのみで、従業員の雇用は買収先で継続されるのが原則です。
事業譲渡に比べて手続きが簡易なのがメリットですが、買い手は売り手の資産や債務をそのまま引き継ぐことになるため、買収調査はしっかりと行う必要があります。
なお、上場企業の場合は、企業の株式を『取引市場外』で買い付ける『TOB(株式公開買付)』という手法が用いられるケースがあります。

事業譲渡
『事業譲渡』は、会社の『事業』の全部または一部を譲渡する行為です。契約当事者は会社となるため、事業譲渡で発生した利益には約30~40%の法人税がかかります。
株式譲渡の場合、売り手の債権・債務は買い手に移転されますが、事業譲渡では譲渡するもの・しないものを個別に設定することが可能です。
そのため、売り手の債務を引き継ぎたくない場合や、一部の事業のみを本体から切り離したい場合などに用いられる傾向があります。
従業員の転籍を伴う場合は個別に同意を得て、買い手と従業員の間で労働契約書を結び直す必要があることも覚えておきましょう。
会社分割
会社分割は、株式譲渡や事業譲渡のような売買行為ではありません。会社組織の再編成によって、グループ会社が抱える問題を解決するのが主な目的です(組織再編)。
具体的には事業の一部または全部を会社から切り離し、別会社に移転します。権利義務の移転先によって、以下のパターンに大別されます。
- 新設分割:新設した会社に引き継ぐ
- 吸収分割:既存の会社に引き継ぐ
一見、吸収分割は事業譲渡と似ていますが、事業譲渡のような個別承継ではありません。事業の権利義務が包括的に他社に移転するため、従業員や取引先との再契約は原則的に不要です。
新設合併・吸収合併
合併は、複数の会社を一つに統合する行為です。新設した会社に消滅会社の権利義務の全てを承継させる『新設合併』と、消滅会社の権利義務を存続会社に承継させる『吸収合併』に大別されます。
グループ企業では、経営の効率化を目的に親会社が子会社を合併するケースがあります。関係性が強化され、シナジー効果が高まるのがメリットです。
なお、税負担や手続きの煩雑さから、実務で新設合併が選択されるケースはほとんどありません。
M&Aを成功させるポイント

前述した通り、M&Aにはメリットだけでなく、さまざまなデメリットやリスクが存在します。年々M&A件数が伸びているとはいえ、全ての会社が希望通りのM&Aを実現できているわけではありません。
M&Aを成功させるためには、どのようなポイントを意識すればよいのでしょうか?
M&Aの戦略をしっかりと立てる
準備段階では「M&Aという選択が自社に合っているのか」「何のために買収や合併を行うのか」といった目的を明確にし、戦略を策定するところからスタートします。
目的や方向性が定まらないままマッチングに入ると、不利な条件で契約が進んだり、売却や買収のベストタイミングを逃したりと後悔する結果になりかねません。以下のような手順で戦略を立てていきましょう。
- 自社分析
- M&Aの目的の明確化
- 経営資源の洗い出し
- 市場調査
- 具体的な戦略の立案
- 対象事業の絞り込み
- アプローチ方法の考案
交渉の支障となる問題点や、譲れない条件などをピックアップすることも重要です。会社売却による事業承継を検討している場合は、親族内承継や従業員承継と比べてどれだけのメリットがあるかを洗い出しましょう。
利害関係者の調整に時間をかける
M&Aのプロセスに入る前に『利害関係者』を把握しておくことが重要です。特に、株主・取引先・役員・金融機関などは、企業活動の影響を直接的に受けるため、M&Aを選択した背景や今後の方針を説明する機会を設けるべきでしょう。
会社は経営者の所有物ではなく、資金を出資した株主のものです。仮に持ち株比率の高い大株主が反対した場合、M&Aの実現は困難です。事前に株主名簿を確認し、誰がどのくらいの株式を保有しているのかを把握しておきましょう。
合併・買収後の統合作業(PMI)に注力する
合併・買収は、異なる企業文化や特徴を持つ複数の企業が一つになることです。シナジー効果を最大限発揮させるには、合併・買収後の『PMI』に注力する必要があります。
PMI(Post Merger Integration)とは、合併・買収後に経営戦略を円滑に機能させるための『経営統合作業』で、以下の3段階で構成されています。
- 経営面の統合(経営方針・理念・マネジメントなど)
- 業務面の統合(業務プロセス・組織構成・人事など)
- 意識面の統合(企業文化・考え方など)
例えば意識面の統合では、互いの企業文化やブランドへの理解を深めることが求められます。
業務統合では、組織の構成を見直すと共に、業務プロセスや役割分担、情報の管理方法などもしっかりと統合していく必要があるでしょう。統合がうまくいかない場合、現場が混乱して業務に支障をきたします。
なお、PMI計画はM&A成立後に立てるのではなく、M&Aプロセスの初期段階から進めるのが望ましいとされています。
M&Aで発生する経費や税金

M&Aにまつわり、どのような経費や税金が発生するのでしょうか?特に買い手は、会社を買収するためのまとまった資金が必要です。M&A仲介業者に支払う成功報酬や手数料も小さくないため、付随費用を含めた資金計画をしっかり立てておきましょう。
M&Aに必要な経費
M&A仲介業者やアドバイザーにサポートを依頼した場合、以下のような費用がかかります。
- 相談料:無料~数万円
- 着手金:無料~数百万円
- 中間金:無料~数百万円
- デュー・デリジェンス費用(買い手負担):数十万~数百万円
- リテイナー・フィー(月額報酬×契約期間):無料~数百万円/月
- 成功報酬:数百万円~(取引金額などによって変動)
中間金は、基本合意書を締結したタイミングで支払うのが一般的です。金額は成功報酬の10~30%前後と考えておきましょう。
成功報酬には、報酬基準額に一定の料率を掛けて算出する『レーマン方式』を用います。報酬基準額には『株式価値』や『移動総資産』などが設定されるケースが多いようです。
M&Aで発生する手数料や経費について知りたい人は、以下もご覧ください。

M&Aで生じる税金
M&Aで生じる税金は、選択したスキームごとに異なります。譲渡代金を受け取る売り手だけでなく、買い手が負担しなければならない税金もあります。以下は、事業譲渡で課せられる主な税金です。
- 売り手:法人税・消費税など
- 買い手(不動産を含む場合):不動産取得税・登録免許税など
資産の譲渡では『消費税』が発生します。納税者は売り手ですが、実際に負担するのは買い手である点に注意しましょう。
M&Aでかかる税金については、以下でも詳しく解説しています。

知っておきたいM&Aに関する基本用語

M&Aでは、聞きなれない専門用語が数多く登場します。そもそもM&Aは欧米諸国で発達したスタイルのため、英語表記やカタカナ表記が多く用いられる傾向があるのです。最低限覚えておきたい基本用語をピックアップして紹介します。
NDA(エヌディーエー)
NDA(Non-Disclosure Agreement)は、日本語では『秘密保持契約』と訳されます。 候補先の選定において、売り手は買い手から自社情報の開示を求められます。その際、第三者に機密情報が漏えいしないように、NDAを締結した上で情報開示を行うのが通例です。
具体的には、知り得た情報を第三者に漏えいしないことや、特定の目的以外で使用しないこと、ルールに違反した際の損害賠償などが盛り込まれます。
ロングリスト・ショートリスト
候補先の選定プロセス(ターゲット・スクリーニング)では『ロングリスト』『ショートリスト』という用語が頻出します。
ロングリストは、一定の選定基準を満たす候補先を幅広くピックアップしたものです。ターゲット選定をスムーズにするため、まずは自社の基準に合致しない会社を振るい落とす必要があるのです。
さらに条件を細かく設定し、ターゲットを数社に絞ったものはショートリストと呼ばれます。作成後は優先順位をつけた上で、上位数社との面談を検討します。
ノンネームシート
ノンネームシート(Non-name sheets)は、売り手が買い手に提出する資料の一つです。秘密保持契約(NDA)の前段階において、地域・売上規模・事業内容・譲渡スキームなどの自社情報を匿名でまとめます。
ノンネームシートの目的の一つは、情報漏えいリスクの排除です。買い手は提出されたノンネームシートを閲覧し、M&Aの実行可能性がある売り手に情報開示を求めます。
のれん
のれん(営業権)は、買収価額から売り手の簿価純資産価額を引いたときに生じるプラスの差額です。言い換えると、M&Aの買収価格は『将来期待できる利益』や『会社が保有する無形財産』などが上乗せされて算定されていることになります。
- のれん=買収価額-売り手の時価純資産額
なお、売り手の簿価純資産を下回る対価でM&Aが行われた場合は差額がマイナスになり、『負のれん』が発生します。
M&Aの成功事例(譲渡側)

M&Aプラットフォームの台頭により、個人や中小企業のM&Aが身近なものになりつつあります。とはいえ、M&A未経験者は「いい相手が見つかるのだろうか」「リスクはないのだろうか」と、最初の一歩を踏み出せないものです。
TRANBIでは日々多くの売り手と買い手が出会い、マッチングが成立しています。実際の成功事例の中から、まずは売り手側(譲渡側)の事例を紹介しましょう。
廃業寸前のサンドイッチ店をM&Aで譲渡
TRANBIには、廃業間際のサンドイッチ店がWeb制作会社に200万円で買収された事例があります。情報の掲載後は売り手に対して20件以上のオファーがあり、その後はとんとん拍子で買収先が決まりました。
希望価格を高額にせず、『買い手が購入を検討しやすい金額』を打ち出したことが成功につながったようです。
会社や店舗を廃業する場合、設備の処分や登記手続きなどに数十万円の費用がかかります。廃業で得られる対価は0円ですが、M&Aを活用すればまとまった資金が手に入る可能性が高いでしょう。

16年続けてきた英会話スクールを売却
長年運営してきた英会話スクールを株式譲渡で売却し、売却後も株主兼ビジネスパートナーとしてスクールの経営に携わるオーナーの事例があります。
当初は経営から完全に身を引く予定でしたが、エネルギッシュで前向きな買い手オーナーの提案を受け入れ、現在は2人体制でスクールを運営しています。
『事業の売却=事業を辞める』ではなく、売却後に新たな選択肢が広がる可能性もあるのです。

継続赤字で廃業目前の清掃事業を無事売却
多くの人は『赤字会社は売却できない』と考えます。当然、黒字会社の方が売却できる可能性は高いですが、他社にない強みや魅力があれば、継続赤字でも売却が成立する場合があるのです。
創業50年の清掃事業者Aは、直近3期がほぼ赤字でした。社長個人の貯金で赤字を補填するような状態でしたが、TRANBIへの掲載後は、わずか3カ月ほどでM&Aが成立しています。 銀行からの借入がなかったことに加え、主要取引先の一つが大企業だったことが買収の決め手になったようです。

M&Aの成功事例(買収側)

続いて、TRANBIのM&Aの成功事例の中でも、買い手側(買収側)に焦点を当てた事例を紹介します。
同じ地域で親和性の高い事業を買収し事業拡大へ
新潟県新潟市にあるパソコンスクールの事例を紹介しましょう。市内にプログラミング教室などを複数運営していたこちらの企業は、親和性の高いパソコンスクールとパソコン修理店をそれぞれ買収しました。
買収の条件として、同社がこだわったのは「同じ地域にある」ということでした。地域性に対する買収先との理解度の高さや目の行き届きやすさ、何かあればすぐに会いに行けるという信頼性は、買収時に発生しやすい摩擦や問題を解消する要因にもなりました。 パソコン関連事業という親和性の高さも、成功の要因と言えるでしょう。地域性・事業への理解度の高い企業を買収できたことは、今後の成長に繋がっていけるという確信を経営者にもたらしました。

数字だけでは測れない。人と人を繋ぐM&A
M&Aというと、つい数字や費用対効果を重視しがちですが、「人的資源を得る」「人と人を繋ぐ」ことも期待できます。そんな事例を紹介しましょう。
大阪で福祉事業を手がけるある会社は、不妊治療専門のサロンから直接のオファーを受けて、事業買収を決意したといいます。サロンのオーナーは、困っている人のためにも事業を続けたい想いを伝え、その熱意に動かされたことがM&Aを実施した大きな要因だったようです。
経営者は投資家ではない。その事業への想いや意義を大切にしたいと、買収側の会社の代表者は語っていました。会社を買うと言うことは、譲渡側の熱意や意思を継承することでもあります。人の熱意や意思をまるごと受け継ぐ覚悟も、M&Aにおいて大切なことかもしれません。

成功はリスクの先にある。誠実さと見通す力
M&Aを成功させるには、経営者としての経験や慎重な姿勢も大切です。しかし、初心者ならではの大胆さ、リスクを恐れない勇猛さがM&Aを成功に導いた事例もあります。
多彩な事業を扱うこちらの会社では、新たに飲食店の経営にチャレンジしようとしていました。様々な手段を模索しているうちにM&Aにたどり着き、そして都内にある飲食店に注目します。
従来の事業は飲食店と結びつくものではなかったものの、自身の持っているスキルとのシナジーは感じていたそうです。初めての事業に恐れずリスクを取り、値切りを行わない誠実さと、このご時世におけるテイクアウトやデリバリー事業のトレンド性に注目して買収を決意したといいます。
単なるブームに乗ったわけではなく、ビジネスモデルや店舗の状態もしっかりと見据えた上で、判断を下したと代表は語ります。誠実さと調査力、そしてリスクを恐れずに取る決断力も、M&A成功には不可欠なのです。

まとめ
M&Aにはさまざまなスキームがあります。M&Aへの挑戦を検討している個人や会社は、『なぜM&Aでなければならないのか』『どのスキームが自社に最もふさわしいのか』をはっきりさせた上で、戦略をブラッシュアップしていきましょう。
買収・売却のタイミングを逃さないためにも、普段からM&Aプラットフォームでこまめに情報収集をしておくことをおすすめします。
TRANBIは、成功者インタビューや初心者向け無料動画をはじめとするM&A関連コンテンツが充実しています。情報収集の一環としてぜひご活用ください。