
後継者不足をM&Aで解消する。後継者を探す会社や事業を引き継ごう
後継者不足の中小企業が増えている昨今は、買い手にとって会社や事業を獲得しやすい状況です。中には後継者不在で黒字廃業に至るケースもあり、社会的な影響が増大しています。後継者不在に悩む会社の探し方や、M&Aの事例をチェックしましょう。
2022-01-18
中小企業は後継者不足に陥っている

多くの中小企業にとって後継者不足・後継者不在は大きな課題です。かつては、当たり前のように経営者の子どもが後継者になっていましたが、そのようなケースは減少中です。加えて後継者の決定率は、経営者の年齢や業界によって異なります。
どのような傾向があるのかも、あわせて見ていきましょう。
後継者はどのように選び、育てるのか
後継者としてまず検討されるのは、経営者の子どもです。中小企業では家業として取り組んでいる側面もあるため、子どもが跡を継ぐケースが多いでしょう。
子どもを後継者として決定したら、事業に関する専門知識を身につけたり、自社の業務に対する理解を深めたりするため、社内のさまざまな部門をローテーションさせて教育を実施します。
理解が深まったら、経営幹部として経営上の意思決定や交渉を任せる段階です。経営者としてどのようにリーダーシップを発揮していくのかを実体験とともに学ばせます。
最終的な経営の引き継ぎまでに、後継者は十分な知識やリーダーシップを身につけます。その上で経営者の持つ理念やノウハウを吸収し、引き継ぐのが一般的な流れです。
経営者の年齢ごとの後継者不在率
会社や事業を引き継ぐ後継者が決まっていないことを示す『後継者不在率』は、経営者の年齢によって下記の通り異なります。
- 50~59歳:69.4%
- 60~69歳:48.2%
- 70~79歳:38.6%
- 80代以上:31.8%
会社員が定年退職を迎える60代では、後継者不在率は48.2%と半数近くにまで迫ります。しかし70歳以上であっても、まだ候補者がいない経営者が3割から4割近くいる状態です。このように後継者不在の状態になるのは、少子化が一因といわれています。
また価値観の変化により、以前のように当たり前に親の会社を引き継ぐケースが減ったことも、後継者不足につながっているでしょう。
参考:2021年版中小企業白書 第2部 危機を乗り越える力 第3章 事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用 第1節 事業承継を通じた企業の成長・発展|中小企業庁
後継者不足に悩む業界は?
業界によっても後継者不足の状態は異なります。『2021年版中小企業』によると、2020年の業界ごとの後継者不在率は下記の通りです。
- 建設業:70.5%
- サービス業:69.7%
- 不動産業:67.5%
- 小売業:66.4%
- 卸売業:63.0%
- 運輸・通信業:61.5%
- 製造業:57.9%
- その他:54.4%
後継者不足は全体的にいわれている課題ですが、業界によってはより深刻な状態であると分かります。例えば建設業は後継者不在率が最も高く70.5%です。
大手ゼネコン以外では給与水準が低い傾向があり、若手の人材から職場として選ばれない傾向があるのも理由の一つといえます。加えて一人親方が多く、事業承継に対する関心が低いのも、後継者が不足しがちな原因でしょう。
参考:2021年版中小企業白書 第2部 危機を乗り越える力 第3章 事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用 第1節 事業承継を通じた企業の成長・発展|中小企業庁
黒字でも廃業せざるを得ない状況に

経営状態に何も問題がなく、黒字が続いているとしても、後継者がいなければ廃業は避けられません。後継者がいないまま経営者が高齢になり廃業せざるを得ない事態になると、関係する会社を含め社会全体に影響を与える可能性があります。
事業承継の準備不足や経営者の意思で廃業へ
後継者へ会社や事業を引き継ぐのは、簡単なことではありません。事業承継の準備不足や経営者の意思によって、黒字でも廃業するケースもあります。
例えば後継者が育成できていないケースや、後継者に引き継ぐ資産や計画について周囲の理解を得られず、やむなく廃業するといったケースが挙げられます。
このほかにも、状況によっては、税金対策や資金の用意が必要でしょう。経営者が事業の将来性に期待していない場合、先行き不透明な会社や事業を後継者に譲り渡すのをためらうかもしれません。経営者の意思で廃業するケースもあります。
このほかにも、状況によっては、税金対策や資金の用意が必要でしょう。経営者が事業の将来性に期待していない場合、先行き不透明な会社や事業を後継者に譲り渡すのをためらうかもしれません。経営者の意思で廃業するケースもあります。
経営者が高齢になり廃業をする例が多い
2021年版の中小企業白書によると、2020年に休廃業・解散した会社は4万9698件だったとされています。2013年は3万4800件のため、8年前に比べ約1万5000件も増えています。
休廃業・解散した会社の経営者を年代別に見ると下記の通りです。
- 60代:24.5%
- 70代:41.8%
- 80代以上:17.9%
70代が最も多く、80代以上と合わせると6割近くを占めています。加えて、70代以上の経営者が休廃業・解散するケースは年々増加傾向です。このことから高齢になった経営者が廃業を選択していると考えられます。
参考:2021年版中小企業白書 第2部 危機を乗り越える力 第3章 事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用 第1節 事業承継を通じた企業の成長・発展|中小企業庁
廃業が社会に与える影響は大きい
会社がなくなることは、周囲に大きなインパクトを与えます。小さな会社であったとしても、事業を行うにはほかのさまざまな会社や個人と関わりを持っているはずです。
中には廃業する会社に売上の多くを依存している取引先もあるかもしれません。すると、廃業をきっかけに取引先も倒産する可能性があります。
中小企業は地域の雇用の受け皿になっているケースもあるでしょう。廃業すれば失業者が増え、地域経済が悪化しかねません。会社の持つ技術やノウハウも失われてしまいます。
廃業する会社が増えれば、地域経済だけでなく日本経済全体に影響が及ぶでしょう。
後継者不足の会社や事業を救うには?

経営者が高齢になり後継者不在で廃業する会社が増える中、M&Aによる事業承継が注目されています。株式譲渡や事業譲渡のスキームを使い事業承継をすれば、廃業するはずだった会社や事業を救えるかもしれません。
M&Aで後継者問題解決を図る経営者は増加
かつてはM&Aというと敵対的買収のイメージが強かったため、抵抗を感じる人も大勢いました。しかし現在では友好的買収が広く知られるようになり、事業承継の選択肢として一般的なものになっています。
その結果、取引の件数は増加中です。株式会社MARROnlineの調査によれば、によると、2018年には3850件、2019年は過去最高の4088件のM&Aが実施されています。
M&Aを実施した会社の多くは、第三者から相手を紹介されているのが特徴です。顧問税理士といった信頼できる専門家に紹介され、M&Aプラットフォームを利用したケースもあります。
スムーズなM&Aで後継者問題を解決するには、金融機関や専門家など、M&Aについて相談できる相手がいるとよいでしょう。
株式譲渡や事業譲渡で承継する
M&Aで事業承継を実施するときに利用する代表的なスキームは、『株式譲渡』や『事業譲渡』です。
- 株式譲渡:会社の株式を買収し経営権を取得する
- 事業譲渡:会社の持つ事業の一部や全部を買収する
スキームにはそれぞれ特徴があります。会社や事業を引き継ぐときには、対象会社や事業の特徴に合わせ、適正なスキームを選びましょう。
例えば対象会社に多額の借入金がある場合、引き継ぐ資産を選べる事業譲渡なら借入金を切り離して事業承継できます。一方、株式譲渡であれば、株式の買収のみで手続きが終わるため、比較的簡単に承継が可能です。
まずは後継者候補として働く
いきなりM&Aで対象会社を買収するのではなく、まずは後継者候補として会社に入社する方法もあります。社内で実務的な経験を積んだ上で会社や事業を引き継げば、事業を深く理解した上で経営が可能です。
経営者も後継者に対し、社内で実務的な経験を積むことや、経営のサポートから参加することを求めるケースが多いでしょう。
後継者に悩む会社を探すには?

後継者不在の会社を買収するには、探し方がポイントです。『事業承継・引継ぎ支援センター』や『M&A専門業者』を利用する方法を紹介します。
事業承継・引継ぎ支援センターで探す
事業承継・引継ぎ支援センターは、各都道府県に設置されている機関です。後継者のいない中小企業と、買収を検討している買い手とをマッチングしてくれます。
個人の買い手と中小企業を結び付ける『後継者人材バンク事業』を実施しているのも特徴です。創業を目指す起業家と後継者がいない中小企業のマッチングによって、創業と事業承継の両方をサポートします。
M&Aの専門業者を活用する
M&Aをサポートする専門業者の活用も有効です。後継者のいない売り手と、事業を始めたい買い手のマッチングをサポートしてくれます。『M&Aマッチングサイト』を利用すれば、より簡単に売却情報を確認可能です。
TRANBIでは、検索するときに後継者不在の案件だけを探せます。2021年12月時点では700件弱の後継者不在案件が掲載されているため、さまざまな業種の対象会社を探せるでしょう。
後継者不在の会社や事業のM&A事例

後継者不在の会社や事業の買収を考えているなら、具体的な事例をチェックしておくと参考になるかもしれません。TRANBIを利用しM&Aに成功した事例を見ていきましょう。
老舗和菓子店を引き継いだ事例
食に関する事業を立ち上げたいという思いから、老舗和菓子店を引き継いだ事例では、売り手へ向けプレゼン資料を作成したそうです。残すべきもの・変えるべきものを提示し、今後の展望をプレゼンしました。
その結果、和菓子離れによる減益で事業を手放したいと考えていた売り手から、事業譲渡を受けられることになったそうです。ただし全てが順調に進んだわけではありません。
最終的な契約締結までには1年間かかってしまったそうです。その間、商標の使用NGという思わぬ条件も判明しました。売り手・買い手双方で条件を確認し、書面にしておく必要性を感じたそうです。
全ての条件を総合し、最終的には数十万円での事業譲渡が成立しました。

印刷代行業を引き継いだ事例
事業承継をしたい売り手の案件にターゲットを絞り、サラリーマンの買い手が印刷代行業を引き継いだ事例もあります。
経営者の思いを引き継ぎたいと感じていたため、高齢で後継者がいない経営者の困った様子を見逃せなかったそうです。最初の面談から契約成立までは約半月で完了し、非常にスピーディーに進みました。
しかし購入資金の工面には苦労したそうです。1000万円の買収資金のうち、半分ほどは自己資金で用意できましたが、残りは金融機関から借り入れました。

まとめ
後継者不足・後継者不在は多くの中小企業が抱える課題です。経営者が高齢になっても後継者が見つからない場合、最終的には廃業せざるを得ません。
実際に廃業する会社は増えており、高齢の経営者が廃業することと関係しているといわれています。このような状況を救うのに役立つのが、事業承継を目的としたM&Aです。
買い手は事業を手に入れられ、売り手は事業を残せます。実際に事業承継した事例も参考にしつつ、M&Aで後継者不在の会社を引き継ぐ選択肢を検討してみませんか?