
PERの目安と注意点。指標の意味や算出法、活用シーンを把握しよう
PERは、株価に対してどれほどの利益を生み出せるかを示す指標です。M&Aや株式投資の場で用いると『元を取るのに何年かかるか』を判断できますが、数値だけで判断せず相対的に分析することが重要です。計算方法や適正とされる目安について解説します。
2022-03-08
PER(株価収益率)とは

『PER』は株価の水準を見極める基準の一つです。『Price Earnings Ratio』の略称で、日本語では『株価収益率』と訳されます。計算方法やPBRとの違いについて理解を深めましょう。
株価の現状を判断する指標の一つ
PER(株価収益率)は株価と企業の当期純利益との関係を示す尺度で、主に『株価の割安感』を知るために使われます。
- PER(倍) = 株価 ÷ EPS(1株当たり当期純利益)
- EPS=当期純利益÷発行済株式総数
『EPS(1株当たり当期純利益)』とは『1年間の企業活動において株主にどれだけの利益がもたらされるか』を示したものです。株価は業績を先取りして動くため、実績値ではなく『当期の予想数値』を用います。

株価をEPSで割ると、『1株に対して、当期純利益の何倍の値段が付けられているか』が分かります。
PERが高い、低いが意味するもの
PERは『株価が1株当たりの当期純利益の何倍になっているか』を示す指標であるため、数値が高ければ『割高』、数値が低ければ『割安』といえます。
- 企業AのPER:株価1000円÷EPS100円=10倍
- 企業BのPER:株価1500円÷EPS100円=15倍
『投資元本の回収期間』を表す指標でもあり、上記の例における企業Bでは、投資した1500円は15年で回収できることを意味します。
ただし、株価や当期純利益は期ごとに変動するため、投資回収期間を正確に算出できるわけではありません。あくまでも一つの目安と考えましょう。
PBRとの違い
『PBR(Price Book-value Ratio)』も株価が割安かどうかを判断する指標の一つです。日本語では『株価純資産倍率』と訳され、株価が『1株当たり純資産(BPS)の何倍で買われているか』を示します。
つまり、PERは『株価を事業価値で比較したもの』であるのに対し、PBRは『株価を資産価値で比較したもの』です。
- PBR=株価÷BPS(1株当たり純資産)
- BPS= 純資産 ÷ 発行済株式総数
一般的に、PBR=1倍(株価=1株当たり純資産)が基準となり、1倍以上は割高、1倍未満は割安と判断します。
しかし、業績悪化や不祥事などが影響して1倍を割っている可能性や、IT企業などでは1倍以上でも割安な場合もあるため、他の指標と組み合わせや業界内での比較をしながら慎重に判断する必要があるでしょう。
PERの注意点

PERが極端に高い、または低い場合は、何かしらの理由があります。『なぜこの数値が出ているのか』を考え、自分で調べてみることが大切です。数値だけを見て判断すると、思わぬ失敗につながる可能性があります。
相対的な分析が必要
PBRはITなどの特定の業界を除けば、『1倍以上であれば割高、1倍以下であれば割安』と判断できるのに対し、PERには絶対的な目安がありません。
『〇倍だからよい、〇倍だからよくない』と単純に判断ができないため、過去の推移や同業他社と比較した上で、相対的に分析する必要があります。
例えば、過去のPERが5倍~10倍で推移していた場合、12倍に上がれば割高といえますし、4倍に下がれば割安と判断ができるでしょう。業界によっても差があるため、比較は『業界内』で行うのが賢明です。
一時的にPERが上昇するケースも
PERの値が高ければ、利益に比べて株価が割高で、低ければ割安であると判断できます。しかし、一時的にPERが上昇するケースもあるため、安易な判断は禁物です。
PERでは、株価を1株当たり当期純利益(EPS)で割って算出します。この『当期純利益』は、経常利益から特別利益と特別損失を引き、さらに税金を差し引いた利益です。
例えば、数年に一度の大きな特別損失が計上された場合、EPSは大きく下がり、PERの値は高くなります。表面的な数値だけで判断せず、当期純利益がどのような状態になっているのかを確かめる必要があるでしょう。
PERの活用例

PERが活用される代表的なシーンとして『投資判断』や『企業価値評価』が挙げられます。実際にどのように使われるのかを見てみましょう。上場企業のPERは、証券会社のサイトにある『銘柄情報』で確認ができます。
割高、割安か投資判断をする
『今後株価が上がる銘柄を安く買う』が基本の株式投資において、投資判断は欠かせません。PERにはPBRのように明確な基準がないため、企業の過去の業績や他社の業績と比較して判断しましょう。
投資家の中には、日経平均株価やTOPIXの平均を一つの目安としている人もいます。日本の上場企業の場合、『PER15倍』を適正とするケースが多いようです。
ただし、割高な株が必ずしもよくないわけではなく、投資家がその企業の将来性や成長性に期待をして投資をした結果、PERが高くなる場合もあります。企業のポテンシャルを考慮した上で、総合的に判断することが重要です。
企業価値評価で使用
企業のM&Aでは、株価の算定や取引価格の算出をするために、売り手企業の『企業価値評価』を行います。企業価値評価とは、その会社全体の価値や株式の価値などを算出することです。
評価対象会社と類似した上場企業を例にして企業価値を出す方法は『類似会社比較法(マルチプル法)』と呼ばれ、PERが活用されることがあります。
まずは類似の企業の時価総額を 発行株式数で割って、1株あたりの資産を算出。そこから1株あたりの利益を割って出した類似会社のPERに当期純利益を乗じます。それにより、会社の事業価値から有利子負債などの他人資本を差し引いた『株主に帰属する企業価値(株主価値)』を算出できます。
ただ、前述したようにPERは特別損益などの突発的な影響を受けることがあるため、その活用には留意が必要となります。
まとめ
PERは企業の利益から見た『株価の割安感』を示すもので、企業価値評価や投資判断の際に活用されます。
高ければ割高、安ければ割安とされるのが一般的ですが、数字には企業のさまざまな事業が反映されるため、表面的な数字だけで判断するのは好ましくありません。構成要素である当期純利益にも着目し、妥当であるかを見極めましょう。


