
みなし配当とは?適用されるケース、計算方法など詳しく解説
配当ではないものの、配当と同等のものとみなされ課税される制度を『みなし配当』と呼びます。実質的には利益配当と変わらないため、株主には配当所得と同じ税金が課せられます。みなし配当が生じるケースや、税務処理のポイントについて解説します。
2022-04-13
みなし配当の特徴

『配当(はいとう)』とは、企業が株主に利益を分配することです。税制上は配当として扱われながらも、会社法上では配当にあたらない配当は『みなし配当』と呼ばれます。みなし配当の定義と特徴について理解を深めましょう。
会社法上の配当ではない
株式会社では、会社の業績が向上して利益が出ると、株主はその利益の一部を受け取れます。金銭での還元は『配当金』と呼ばれ、企業の当期利益、または利益の積み立てである利益剰余金から支払われるのが通常です。
みなし配当とは、その名に『配当』と入っているものの、配当ではありません。株主が会社から配当金を受け取っていないにもかかわらず、『受け取った(利益分配がなされた)』とみなして株主に課税することから、『みなし』という呼称になっています。
税務上は配当として扱われる
みなし配当は税制上の都合で、『配当とみなす』とされているものです。以下のポイントを押さえておきましょう。
- 会社法で規定された配当ではない
- 利益の分配にあたることから、法人税法では剰余金の配当と同様に扱う
- 株主(個人)は配当を受け取ったものとして、配当所得の申告をする
その取り扱いは、所得税法の第25条1項(配当等とみなす金額)によって規定されています。
第二十五条 法人(法人税法第二条第六号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この項において同じ。)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(同条第十二号の十五に規定する適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の同条第十六号に規定する資本金等の額又は同条第十七号の二に規定する連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第一項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。
その理由は?
「なぜみなし配当が存在するのか」と疑問に思う人も多いでしょう。みなし配当は税制上の都合による存在です。
例えば、みなし配当が適用されるパターンの一つに『自己株式の取得』が挙げられます。自己株式の取得とは、会社が株主から自社の株式を買い取ることです。
会社にとって自己株式の取得は、株式の売買ではなく『資本の払戻し』にあたりますが、みなし配当の制度がないと、株主側では『譲渡所得(資産を譲渡することによって生ずる所得)』に課税されてしまいます。
払戻しという一つの事実に対して、両者が異なる課税処理をされないように、みなし配当を設けることで同じ配当所得として取り扱うことにしたのです。

配当に課される税金
みなし配当を取得する対象によって、課される税金が異なる点に注意しましょう。
対象者 | みなし配当の扱い | 税率 |
自社の株式を個人株主から取得した法人(自己株式取得) | 配当所得(源泉徴収) | ・上場企業:20.315%(所得税・復興特別所得税)
・非上場企業:20.42%(所得税・復興特別所得税) |
株式を発行会社に譲渡した法人 | 受取配当金 | 『受取配当等の益金不算入制度』が適用 |
株式を発行会社に譲渡した個人(3%以上を保有する大口株主を除く) | 配当所得 | ・所得税・住民税:計15~55%(総合課税) |
株式を発行会社に譲渡した法人の場合は、『受取配当金』としての扱いとなり、一定の要件を満たした場合、法人税の計算上、益金から除かれます。加えて、源泉徴収された所得税額が納付すべき税額の計算上で控除されます。
配当所得は他の所得と合算した金額に対して課税される『総合課税』です。個人株主には、所得に応じて所得税・住民税の合計で15~55%の税率が課税される点にも留意しましょう。
みなし配当が適用されるケース

みなし配当は、何らかの理由で『会社が株主にお金を払戻したとき』に適用されます。代表的な三つのケースについて見ていきましょう。
自己株式取得
『自己株式の取得』とは、会社が自ら発行した株式を株主から買い戻す行為を指します。税制上では、一部は『資本金の払戻し』、一部は『利益の分配(みなし配当)』と考えます。
株主が出資した金額よりも株式の評価額が高くなっていた場合、差額は『実質的な配当があったもの』とみなされて、課税対象となるのです。
例えば、自己株式の取得金額が500万円、自己株式となる株式の資本金等の額が300万円であった場合、200万円の部分はみなし配当金額にあたります。自己株式となる株式の資本金等の額が300万円、出資した資本額も300万円であれば、税金は発生しません。


資本剰余金を原資とした配当金の支払い
『資本剰余金』とは、株主からの出資金のうち、資本金に組み入れなかったものを指します。『資本準備金』と『その他資本剰余金』から構成されており、株主への配当が必要な場合、資本剰余金を原資にすることが可能です。
資本剰余金を原資とした配当金の支払いは、一見みなし配当にあたらないように思えますが、『一度払い込んだ出資金を株主に返還する』という点から、みなし配当として扱われます。資本剰余金を原資とした配当金が支払われる際は、会社から株主に通知を行うのが一般的です。
会社清算で残余財産の分配があった場合
会社の解散時に残余財産がある場合、会社の持ち主である株主に財産の分配が行われます。会社法の『株主平等の原則』の規定に従い、株主の持ち株数に応じて残余財産が分配されるのです。
株主が出資した金額より大きな金額の財産を受け取った場合、会社の利益が分配されたとして、その差額はみなし配当となります。残余財産額が出資額と同じかそれ以下だった場合は、みなし配当は発生しません。
組織再編でみなし配当が適用されるケース

『組織再編』とは、合併・会社分割・株式交換・株式移転によって、会社組織の形態を編成し直すことです。会社再編に伴い、株主が対価として株式やお金を受け取ると、みなし配当が適用される場合があります。
ここでは合併と会社分割の事例を取り上げます。
非適格の分割型分割
まずは税制上の『非適格』と『適格』について把握しましょう。非適格というと悪いイメージがありますが、税制上では『非適格=原則的な取り扱い』、適格は『特例的な扱い』を意味します。ここでは原則的な扱いである『非適格の分割型分割』について解説します。
会社分割とは、自社の権利義務の一部または全部を他社に承継することです。承継会社(事業を承継する側)は分割会社(分割される側)に対して分割の対価を支払いますが、対価の受け取り手が会社ではなく『株主』であるものは、『分割型分割』と呼ばれます。
所得税法25条と法人税法24条には、『分割会社の資本金等の額のうち、配当交付の基因となった株式や出資に対応する金額を超える部分がみなし配当に該当する』という記載があります。
簡単にいえば、株主が自分で出資した金額を超えた部分は、みなし配当として扱われるのです。なお適格分割では、みなし配当は発生しません。
非適格の合併
合併とは、複数の会社を一つに統合するスキームで、合併する側は『存続会社』、合併される会社は『消滅会社』と定義されます。合併の際、消滅会社の株主は、存続会社から対価として株式や金銭を受け取るのが通常です。
分割型分割と同様に、合併対価が、被合併法人の資本金等の額(株主が出資をした額)を上回った部分は、みなし配当とされ、課税対象となります。
みなし配当の算出方法は?

みなし配当には基本の計算式があります。具体的な算出方法はみなし配当が生じる取引によって若干変わりますが、まずは基本となる考え方を押さえておきましょう。
基本の計算式
株主が資本の払戻しにより金銭の交付を受ける場合、みなし配当は以下の計算式で算出します。
- みなし配当額=株主が受け取る金額-資本の払戻し相当分
基本は、株主が受け取る対価全体から資本の払戻し部分を差し引くだけのシンプルなものです。しかし『資本の払戻し相当分』を算出するための計算式が取引ごとに細かく分かれているため、みなし配当額を正確に計算するのは難易度が高いといえます。
みなし配当が発生する可能性があるのは、以下のような取引が生じた場合です。
- 非適格合併
- 非適格分割型分割
- 資本剰余金の配当
- 自己株式の取得
- 非適格株式分配
- 持分会社の出資払戻し
- 組織変更
ケース別の計算例
資本剰余金の配当と残余財産の分配のケースを例に挙げましょう。最初に、以下の計算式に当てはめて『資本の払戻し相当分』を算出します。
- 資本の払戻し相当分=払戻し直前の資本金等の額×(資本の払戻しにより減少した資本剰余金の額÷前期末の簿価純資産額)※前期末の簿価純資産額は『前期末総資産-前期末総負債』により算出
- みなし配当額=株主が受け取る金額-資本の払戻し相当分
受け取る金額が資本の払戻し相当分を上回った部分は、『利益の配当』と同一となるみなし配当額です。通常の配当と同じように、受取時には20.315%(上場企業の場合)の税率で源泉徴収を行います。
みなし配当の取り扱い

みなし配当が生じる取引があった場合、発行法人側(みなし配当を行った側)と株主側(みなし配当を受けた側)では、一定の税務処理が必要です。
みなし配当を行った際は支払調書の作成
みなし配当部分には、所得税と復興特別所得税が課税されます(源泉徴収)。みなし配当を行った会社側では、株主ごとに『支払調書』を作成した上で、『納税地等を所轄する税務署長』に支払調書及び支払調書合計表を提出しなければなりません。
支払調書とは、主に企業が個人に支払いを行う際に、年間で支払った報酬額や源泉徴収税額を集計して記載する書類です。支払調書の申請書は国税庁のHPでダウンロードができます。なお源泉徴収税の納付期限は、支払いを行った月の翌月10日です。
参考:[手続名]配当等とみなす金額に関する支払調書(同合計表)|国税庁
みなし配当を受けた場合の税務処理
みなし配当を受けた側の税務処理は、受けたのが個人か法人かによって異なります。法人の場合、配当を受けた会社へ一定以上の持分を保有している場合には、みなし配当は税務上『受取配当等の益金不算入』の適用を受け、受取配当金の大部分を益金には算入しない財務処理を行います。
益金不算入とは、『会計上は収益に計上するが、税務上は益金として計上しない』という制度です。配当金やみなし配当は、法人税が控除された後の利益から配当されるため、益金として扱えば二重課税になってしまうためです。
益金不算入額は、株式の保有割合と国税庁が定めた株式等の区分によって、計算方法が変わります。詳しくは国税庁のHPで確認しましょう。
一方、個人株主がみなし配当を受け取った際は『配当所得』となり、確定申告が必要です。確定申告をすれば『配当控除』を受けられます。
参考:No.1250 配当所得があるとき(配当控除)|国税庁
まとめ
みなし配当は会社法や会計法にはない、税法上の概念です。大きくは『会社が株主に払戻しをした場合』と『組織再編があった場合』に、みなし配当が生じます。
実際に配当を受け取っていないのに、税務上は配当金と同様に扱われるため、配当をする側も受け取る側も、税金の処理には注意しなければなりません。算出方法は複雑であるため、みなし配当が生じる際は会計士や税理士にサポートを依頼しましょう。


