
M&A戦略はなぜ重要?自社の課題や目的、資金調達方法の整理を
M&A戦略は、経営戦略と事業戦略に基づいて策定します。目標を明確にした上で、M&A成立後の経営統合プロセスも含めた戦略を練りましょう。戦略策定に役立つ自社分析のフレームワークや、ターゲット選定のポイントも解説します。
2022-08-12
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M&A戦略とは

M&Aの成功の鍵を握るのは、経営戦略や事業戦略に基づいたM&A戦略です。M&Aでは多額のお金が動く上、さまざまなリスクが伴います。戦略なしで進めれば、多大な損失を被る恐れがあるでしょう。M&A戦略の必要性について解説します。
M&Aで目的を実現するための戦略
M&Aを検討するに当たり『なぜM&Aでなければならないのか』『何のためにM&Aを実行するのか』という目的を明確にする必要があります。
M&A戦略は、それらの目的を実現するための基本方針であり、M&Aの成功を左右する鍵といっても過言ではありません。
M&A戦略は、売り手・買い手の両方に必要なものですが、特に買い手は自社の経営計画にリンクした綿密な戦略を立てることが重要です。戦略なしにM&Aを進めた場合、投資コストを回収できず、M&Aが失敗に終わる可能性があります。
経営戦略や事業戦略との整合性を持たせる
M&A戦略を策定する際は、自社の経営戦略や事業戦略との整合性を保つ必要があります。M&A戦略は独立した戦略ではなく、あくまでも全体的な戦略を構成する要素の一つと捉えましょう。
自社事業とまったく関連のない事業の買収は、経営戦略や事業戦略との整合性が図りにくく、自社の成長に寄与しない可能性が高いのが現実です。
既存事業と関連のない分野で成功を収めた事例もあるものの、失敗のリスクも想定して慎重に検討しなければなりません。
M&Aは実施の前後が重要
M&Aが失敗に終わる要因の一つに、M&A実行後の経営統合プロセス(PMI)が不十分である点が挙げられます。
日本のM&Aは価格交渉ばかりに力が注がれ、『M&A成立後に誰がどのように経営を進めていくか』『課題をどう解決していくか』に対する手当てが手薄になる傾向があるようです。
M&Aのゴールは企業を買収することではありません。M&A戦略を策定する際は、クロージング以降の経営統合プロセスまで含めて考えることが重要です。
また、十分な戦略を練らずに企業買収を進めた場合、思わぬ負債を抱えたり、想定していたシナジー効果が得られなかったりする可能性があります。価格交渉だけでなく、M&Aの事前準備にも力を入れる必要があるでしょう。
準備段階における重要なプロセスの一つに『自社分析』が挙げられます。経営状況・課題を可視化した上で、自社の強み・弱みを探っていくことが、M&Aの成功につながるのです。
PMIについては、以下もご確認ください。

買い手の主な目的とは

M&A戦略は、明確な目的の上に成り立つものです。ここでは、『買い手(譲受企業)』にとってのM&Aの目的を解説します。
事業規模を拡大して利益率を上げる
企業買収を行う目的の一つに、事業規模の拡大による利益率の向上が挙げられます。
例えば、同業他社の買収によって事業規模が大きくなれば、原材料の大量仕入れが可能となります。大量仕入れによる割引で原価を抑えられたり、大量輸送で輸送コストが削減できたりして、結果的に利益率の改善につながるでしょう。
本来、事業規模の拡大には膨大な時間とコストがかかりますが、M&Aで企業を買収すれば、スピーディーかつ効率的に規模を拡大できます。
新規事業参入にかかるコストを抑える
新規事業をゼロベースでスタートする場合、膨大なコストと労力が費やされます。事業を軌道に乗せるまでには何年もの時間がかかるケースが多い上、時間を費やしても必ず成功するとは限りません。
高いモチベーションを維持しながら経営資源を投下し続けるのは、資金が潤沢な企業でない限り難しいと言わざるを得ないでしょう。
M&Aは『時間をお金で買う行為』といわれます。収益が出ている企業や事業を買収することで、リスクを抑えながら新規事業にスピーディーに参入できるのです。
M&Aで得られるメリットについては、以下もご確認ください。

リスク分散の効果も
新型コロナウイルス感染症の拡大は多くの業界に影響を及ぼしましたが、実際は影響が甚大な業界と、影響が比較的少ない業界に明暗が分かれたようです。
特定の事業やエリア、顧客に依存している企業の場合、外部環境の影響をもろに受けて経営が立ち行かなくなるケースがあります。
M&Aで事業の柱を複数作っておけば、環境の変化や業績悪化によるリスクを分散できます。自社事業との関連性がある場合は、相乗効果も見込めるでしょう。
方針を固めるにはまず分析と情報収集

M&A戦略の方針を決める上で重要なのが、『自社分析』と『市場調査』です。自社の成長分野をしっかりと見極めた上で、限られた資源を効率よく投下しなければなりません。
自社の分析
M&A戦略を構築する上で『自社分析』は不可欠です。自社の成長分野や強み、補強したい事業などを洗い出した上で、方向性を決定します。
自社分析の方法は複数ありますが、多くの企業で採用されているのが『SWOT分析』です。企業の内部環境と外部環境を分析するためのフレームワークの一つですが、自社の本質的なニーズを探るためにも活用できます。
具体的には、分析対象を『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』の四つに分け、さらに『プラス要因』『マイナス要因』『外部環境』『内部環境』に分類していきます。
以下のように要素を掛け合わせながら答えを探ることで、具体的な戦略が見えてくるでしょう。
- 強みを生かしながら機会を得るにはどうしたらよいか?(強み×機会)
- 機会を得るためには、弱みをどう克服すればよいか?(弱み×機会)
- 強みを生かして、脅威をチャンスに変える方法は?(強み×脅威)
市場調査の実施
市場調査では、M&Aの実現可能性を裏付ける情報をできるだけ多く集める必要があります。企業買収で事業規模を拡大させたい場合、以下のような項目を調査します。
- 対象となる業界の規模・成長性・将来性
- 成長をけん引する商品やサービス
- 競合企業の数
- 参入障壁とリスク要因
- 業界内でのM&Aや提携の実態
- 商習慣やライフスタイルの変化による市場への影響
精緻なデータを集めようとすると、それなりにお金や時間がかかります。あらかじめ予算や期間を決めた上で、調査をスタートさせましょう。
役立つフレームワーク

自社分析の方法としてSWOT分析を取り上げましたが、ほかにもM&A戦略の策定に役立つフレームワークがあります。中小企業がM&Aで活用できる『バリュー・チェーン分析』『PPM分析』『アンゾフのマトリクス』を紹介しましょう。
バリュー・チェーン分析
バリュー・チェーン分析とは、自社事業を主活動と支援活動に分けた上で、どの過程でどのような付加価値が生み出されているのかを分析する手法です。
具体的には、自社のビジネスを『購買・物流』『製造』『販売』といったユニットに分解し、ユニット単位のマージン(収益)を算定します。
バリュー・チェーン分析のメリットは、自社の強みや弱みが可視化・細分化され、競争優位の源泉を把握できる点です。内製化する工程が明確になれば、他社との『水平統合』や『垂直統合』の可能性も見いだせます。
- 水平統合:バリュー・チェーンにおいて、同じ工程を担う複数の企業が一体化すること
- 垂直統合:バリュー・チェーンにおける異なる工程を単一の企業が取り込むこと
PPM分析
PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とは、経営資源の投資配分を判断するためのフレームワークです。『市場成長率』と『市場占有率(マーケットシェア)』の高低の組み合わせにより、事業活動を以下の四つのフェーズに分類します。
- 問題児:市場成長率は高いが、市場占有率は低い
- スター(花形):市場成長率、市場占有率のどちらも高い
- 負け犬:市場成長率、市場占有率のどちらも低い
- 金のなる木:市場成長率は低いが、市場占有率が高い
PPM分析のメリットは自社の強みや弱み、市場での立ち位置が明確になる点です。投資配分の優先順位が付けやすくなり、迅速な経営判断が可能になります。
M&A戦略においては、『自社の弱みを補える事業』や『成長拡大を見込める事業』が分かるでしょう。成熟期に入り、成長の鈍化が課題となっている企業の場合、高い市場成長率が見込める問題児やスターに成功のヒントがあります。
アンゾフの成長マトリクス
アンゾフの成長マトリクスとは、ロシア系アメリカ人の経営学者であるイゴール・アンゾフが提唱したフレームワークです。成長の可能性や伸びしろが可視化されるため、ポイントを押さえた経営戦略が立てられるでしょう。
アンゾフのマトリクスは、以下の四つのグループから構成されています。
- 市場浸透戦略:既存製品×既存市場による成長
- 新製品開発戦略:新規製品×既存市場による成長
- 新市場開拓戦略:既存製品×新規市場による成長
- 多角化戦略:新規製品×新規市場による成長
多くの企業において、成長鈍化を打開する目的で活用されています。M&Aを通じてビジネスモデルの転換や事業の拡大を考えている企業は、どの戦略が低リスクで有益なのか分析してみましょう。
M&Aが必要な場合にすべきこと

自社分析や市場調査を通してM&Aの有効性を確認した後は、『ターゲットの選定基準の設定』を行います。『M&Aで何を獲得したいのか』をはっきりさせるのがポイントです。
ターゲットの選定基準を設定
経営戦略や事業戦略に基づき、どのような事業・企業をターゲットにするかを明確にしましょう。ターゲットの基準が曖昧な場合、相手探しや交渉が長期化し、M&Aの成功確率が低下します。
ターゲットの必須条件は、経営資源の投入によって成長や拡大が見込まれる点です。ただし、ターゲットにいくら成長性があっても、自社の事業とかけ離れている場合は慎重に検討すべきでしょう。以下は選定基準を決める際に着目すべきポイントです。
- 主力事業との距離感
- 想定されるシナジー効果
- M&Aで獲得したい経営資源(技術・人材・ブランドなど)
- 事業規模や売上
- 進出したいエリア
- 組織文化
- ターゲットの価格
自社の希望と完全に一致するターゲットは少ないため、ここまでなら妥協できるという許容範囲も明らかにしておきましょう。
M&Aで何を得たいのかを明確に
どの企業にも中長期的なビジョンがあり、ビジョンと現実のギャップを埋めるための手段としてM&Aが選択されます。そのため、M&Aの戦略策定では『ビジョン実現のためには何を獲得しなければならないのか』を明確にしなければなりません。
例えば以下のような要素です。
- ノウハウ・技術の獲得
- 顧客の獲得
- 優秀な人材の獲得
- 取引先・仕入先・外注先の獲得
- スケールメリットの獲得
- シナジー効果の獲得
方向性が明確になっていると、買収調査(デュー・デリジェンス)で、重点的にチェックする項目が絞り込めます。PMIで何を優先的に行うべきかも明らかになるでしょう。
例えば介護業界では『有資格者の獲得』を目的としたM&Aが盛んに行われています。介護業界は深刻な人材不足が続いており、求人市場で有資格者を確保するのは容易ではありません。M&Aで介護施設を買収すれば、介護福祉士や認知症介助士などの優秀な人材を確保できます。
資金面やリスクへの対応も検討

M&A戦略では『資金をどんな方法で調達するか』『どのようなリスクが想定され、それにどう対処するか』も重要なポイントといえます。
資金調達の方法
資金が潤沢でない中小企業や非上場企業は、資金難というハードルを乗り越える必要があります。資金調達の方法も含めた上でM&A戦略を策定しましょう。
資金調達方法は、社債や株式を発行して投資家からお金を集める『直接金融』と、金融機関などから借入を行う『間接金融』に大別されます。
ごく少数ではありますが、買収先企業の資産や将来性を担保にして金融機関から融資を受ける『LBO(レバレッジド・バイアウト)』を採用する企業もあります。
最適な資金調達方法は企業それぞれの状況によって異なるため、専門家の助言を参考にしながら検討するのが望ましいでしょう。
M&Aを実行するか否かの基準を設定
特に中小企業は、M&Aに投下できる経営資源に限りがあります。あらかじめ『投資判断基準』を決めておき、基準を超えた場合は潔く交渉から降りる覚悟も必要です。
投資判断基準は、自社の保有キャッシュや資金調達可能額、投資コストの回収期間などが一つの目安になるでしょう。
企業買収にはさまざまなコストがかかります。M&Aの仲介会社に支払う『仲介手数料』もばかにならない金額です。交渉が長引けば長引くほど費用は膨らむため、予算を意識しながら進めていきましょう。
M&Aのリスクにどう対処するか
M&Aのプロセスで発生し得るリスクを想定し、その対処法までも考えておく必要があります。
例えばPMIのプロセスでは、従業員の反発や現場の混乱が予想されます。キーマンとなる従業員が離職した場合、想定していたシナジー効果が発揮されず、M&Aは失敗に終わる可能性が高いでしょう。
この場合、売り手側から信頼できる従業員を選任し、経営者のサポートをお願いするという方法が有効です。
また、M&Aの交渉中に貸借対照表などに計上されていない簿外債務が発覚し、交渉が一時中断するケースもあります。『M&Aを取りやめる』『スキームを変更する』など、いくつかの選択肢を用意しておきましょう。
まとめ
M&Aを成功に導くには、経営戦略や事業戦略に基づいたM&A戦略が欠かせません。戦略が定まっていると交渉段階でも軸がぶれず、納得のいく企業買収ができる可能性が高まります。
ただ単に売り手のえり好みに時間を費やすのではなく、戦力化に向けた『自社分析』もしっかりと行いましょう。自社のみでM&A戦略を立てるのが難しい場合は、M&Aの専門家にサポートを依頼するのが望ましいといえます。
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