
スモールM&Aとは?事例とともに会社を引き継ぐ方法や流れを知ろう
M&Aのプラットフォームを活用すれば、会社員でも小さな店舗や会社のオーナーになることができます。規模の小さな『スモールM&A』にはどのような魅力や利点があるのでしょうか?M&Aを円滑に行うためのポイントや成功事例を紹介します。
2022-03-15
会社員がスモールM&Aを行うメリット

会社員が店舗や事業を買収し、オーナーになる事例が増えています。M&Aは、会社をゼロから起業するよりも手間がかからず、特殊な能力や経歴も必要ありません。資金にそれほど余裕のない会社員には、規模の小さい『スモールM&A』が適しています。
譲渡額が小さい
スモールM&Aは文字通り、規模の小さなM&Aを指します。明確な定義はありませんが、売り手や買い手の年間売上が1億円以下、または譲渡価格が1億円以下のM&Aを指すのが一般的です。
事業承継・M&Aプラットフォーム『TRANBI(トランビ)』には、500万円以下の案件が多く掲載されています。近年は後継者不足に悩む黒字の小規模企業・中小企業が増加しているため、優良な少額案件は今後もどんどん増えていくでしょう。
譲渡価格は売り手と買い手の交渉によって決まります。実際、当初の譲渡価格の半値でM&Aが成立した事例もあるため、粘り強く交渉を進めましょう。
すぐに事業を始められる
M&Aのメリットは、売り手のリソースがそのまま引き継げることです。起業はゼロからのスタートとなるため、時間や手間がかかります。経営の知識や経験がない会社員は、立ち上げ後に大赤字を出すことも珍しくありません。
M&Aでは、既にビジネスモデルが確立している会社や事業を買い取るため、準備期間を短縮できるのがメリットです。M&A成立後の一定期間は、元オーナーが顧問として事業をサポートしてくれるケースが多く、大赤字を出す可能性が低いのも魅力でしょう。
金融機関から融資を受ける場合、会社としての信用力が高ければ高いほど審査が有利に運びます。ゼロからの起業と比べると、審査通過が容易になるかもしれません。
Webサイトを買う

Webサイトは『長年の実績を積まなければ利益が出ない』という性質があり、素人がサイトで儲けようとすると、何年もの年月が費やされてしまいます。実績のあるWebサイトを買収すれば、時間や労力が節約できるでしょう。まさに『時間をお金で買う行為』です。
ネットショップ
ネットショップの運営は会社員の副業として人気がありますが、素人はそうスムーズにはいきません。最初に市場選定を誤れば、その後の売上に大きく影響を及ぼす上、システムを構築したり、顧客を集めたりするのにも時間がかかるでしょう。
実績のあるネットショップを買収すれば、ショップとしての信頼・顧客・売れ筋商品・システムといったさまざまな経営資源が手に入ります。
ショップの形態にもよりますが、譲渡価格の相場は『営業利益×1~3年分』といわれています。仮に、200万円の営業利益があった場合、譲渡価格の目安は200万~600万円です。
アフィリエイトサイト
アフィリエイトサイトは、サイト内に広告を掲載し、ユーザーのクリックや商品の購入によって報酬を得る仕組みです。ネットショップ同様、収益を出すにはアクセス数やコンテンツの内容が重要となるため、素人が収益を上げるのは容易ではありません。
実績のあるサイトを買収した場合、オーナーはコンテンツの定期的な見直しやサイトのデザインの更新だけで、一定の収入が得られるようになります。商品の発送や仕入れがいらないため、会社員の副業にも最適です。
買収時は『サイトが2年後、3年後も収益を獲得し続けられるか』『譲渡価格は適正かどうか』を吟味する必要があります。デュー・デリジェンスの際は、アクセス数やコンテンツ内容を重点的にチェックしましょう。
店舗や学習塾を買う

飲食店・エステサロン・学習塾は、スモールM&Aに多い業態です。従業員の確保がキーポイントとなるため、『売り手から優秀なスタッフをどう引き継ぐか』『1人でも回していけるのか』を考えましょう。
飲食店
飲食業界の案件には、居酒屋・バー・レストラン・カフェ・テイクアウト・デリバリーなどがあります。店内の設備や取引先、顧客などがそのまま引き継げるため、開店に伴う初期費用が大きく削減できるのがメリットです。
飲食店の譲渡価格は、業態・売上高・規模・ブランド力・立地・敷地面積・従業員の有無などに左右されます。100万~500万円の案件もあれば、1000万円を超える案件もあり、明確な相場はありません。最終価格は売り手と買い手の交渉で決まります。
エステサロン
日本標準産業分類において、エステティック業は『手技又は化粧品・機器等を用いて,人の皮膚を美化し,体型を整えるなどの指導又は施術を行う事業所をいう』と定義されています。フェイスケアやボディマッサージのほか、美容脱毛を行う店舗もエステサロンに含まれると考えましょう。
譲渡価格を左右するのは、サロンの規模や立地、取り扱う美容機器の種類などです。規模の小さなサロンであれば、500万円以内で買収できるケースもあります。
顧客に回数券を購入してもらう『前払い式』が大半のため、『どれだけの顧客がいて、どのくらいの回数が残っているのか』を価格交渉前に把握しておかなければなりません。
参考:総務省|統計基準・統計分類|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)
学習塾
かつては、講師1人が大勢の生徒を教える『集団指導型』が主流でしたが、近年は個々の目的や能力に応じて学習内容を変える『個別指導型』が人気です。
新型コロナウイルスの感染拡大も影響して、今後は密にならない個別指導塾の需要が高まるでしょう。譲渡価格が決まるポイントは以下の通りです。
- 立地
- 学習環境
- 規模
- 知名度
- デジタル教材の導入の有無
- 指導方法
全国展開の大型塾は譲渡価格が数千万規模になることが多いため、個人であれば地域に密着した個別指導塾を狙うのが理想です。TRANBIには、100万~500万円の少額案件が数多く掲載されています。
『優秀な講師』は、学習塾にとっての最大の資産です。オーナーが変わると講師が退職し、生徒がほかの塾に流れるリスクがあることも覚えておきましょう。
スモールM&Aの成功事例

多くの事例に触れることで、M&Aのイメージがつきやすくなります。TRANBIを通じて行われたスモールM&Aの成功事例を紹介しましょう。体験談の中に、『成功のヒント』があるかもしれません。
60万円でホテル3部屋を買う
不労所得が得られる不動産投資は、会社員の副業としても注目されています。しかし、資金が少ない・投資の知識がないという人にとってはハードルが高く、大損を出す可能性が高いでしょう。
そこで目を付けたのが『ホテルの区分営業権の譲渡案件』です。ホテルの場所は観光客の多い好立地、京都の五条でしたが、コロナ禍による値崩れで、最終譲渡価格は60万円(3部屋)でした。
集客や運営は委託が可能で、月27万円(9万円×3部屋)の家賃を支払えば、月々の営業利益(ホテル全利益-運営費÷全部屋数)が分配される仕組みです。新型コロナウイルスの収束後、インバウンドが回復すれば、大きな黒字が見込める可能性があります。

272万円で観光用EVバイクレンタル事業を買う
コロナ禍で赤字が続いた『観光用EVバイクレンタル事業』を272万円で買収し、新たな集客構想を打ち出そうとしている事例もあります。
赤字事業の買収では、現在の課題を洗い出すとともに、将来性やポテンシャルを模索することが重要です。コロナ不況で事業を安く手放すオーナーが多い昨今、「資金を抑えながら、オーナー業にチャレンジしたい」という買い手にとってはチャンスでしょう。
EVバイクとは、ガソリンではなく電気で走る『電動バイク』です。EVバイクは全国でも珍しく、うまくいけば5~8年で投資回収ができると予想しました。観光客向けのレンタルがメインですが、近所への貸し出しや販売など、アイデア次第では収益が大きくアップする見込みがあります。

500万円以内で高級チョコレートECを買う
『チョコレートを輸入販売するEC事業』を500万円以内で買収した事例もあります。相場よりも割高でしたが、逃したくない案件だったため、あえて値引き交渉はしなかったそうです。
対象ECは、ヨーロッパで歴史あるブランドのチョコレートを日本でほぼ独占販売しているという強みがあります。ギフトつながりで、『フラワー関連の本業との相乗効果』が生まれると予想しました。
商品はヨーロッパから取り寄せるか、卸会社の倉庫から発送されるかのいずれかの形を取っています。在庫管理の手間がかからず、時間の自由が利く点も買収の決め手となったそうです。

よく使われるM&Aの手法

M&Aのスキームは複数ありますが、スモールM&Aでよく用いられるのは『事業譲渡』と『株式譲渡』の二つです。特徴やメリット・デメリットについて解説します。
事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を第三者に承継するスキームです。経営権が移行しないため、売り手は企業としての独立性を失いません。
買い手は、承継する事業の内容や範囲が取捨選択できます。株式譲渡の場合、売り手の債務を引き継ぐリスクがありますが、事業譲渡はその心配がありません。
デメリットは、譲渡対象となる契約や資産について、個別に譲渡承認を得なければならない点です。買い手は従業員と改めて雇用契約を結ぶ必要があるため、株式譲渡に比べて手間がかかります。
株式譲渡
株式譲渡は、会社の株式を第三者に譲渡し、経営権を移行させる手法です。上場企業は『公開買付』や『市場買付』によって株式譲渡が行えますが、非上場企業は、買い手が売り手の株主と個別に取引をする『相対取引』が基本となります。
一般的に、株式の2/3以上を譲渡すると『経営権』が移行します。売り手は買い手の子会社となるため、独立性は失われると考えましょう。
株式譲渡では、売り手の資産・負債が全て引き継がれます。貸借対照表に記載されない『簿外債務』が多ければ、M&A実施後に、買い手に支払いの義務が生じてしまうでしょう。
スモールM&Aの流れ

M&Aには『一連の手順』があり、規模が変わっても、基本的な流れはほとんど変わりません。省略が可能なものもありますが、M&Aをスムーズに成立させるためにはどのプロセスも重要です。案件探しからクロージングまでの流れを確認しましょう。
M&Aプラットフォームで案件を探す
案件の探し方は、大きく『M&Aの仲介会社に依頼する』『M&Aのプラットフォームを利用する』に分かれます。仲介会社では手厚いサポートが受けられますが、着手金や中間金、成功報酬などが高く付くため、スモールM&Aに関しては、プラットフォームを活用するのが賢明です。
M&Aのプラットフォームとは、売り手と買い手をつなぐマッチングサイトを指します。以下のようなメリットがあり、M&Aが初めての人でも気軽に案件探しができます。
- 24時間いつでも案件がリサーチできる
- 条件やフリーキーワードによる絞り込みが可能
- 仲介業者に比べて手数料がリーズナブル
- 案件数が豊富で、少額案件も充実している
サポート体制や利用料金、交渉ルールはサイトごとに異なるため、複数を比較した上で登録をしましょう。複数のサイトを活用する手もあります。
秘密保持契約の締結
『秘密保持契約(Non-Disclosure Agreement、NDA)』とは、自社情報を他社に開示する際に締結する契約書の一種で、情報の不正利用や機密情報の流出を未然に防ぐ役割があります。義務の不履行があれば、相手に対して損害賠償請求が可能です。
- 差入方式:一方の企業が記名・捺印した契約書を、相手の企業に差し入れる
- 契約書方式:当事者の双方が署名捺印する
TRANBIの場合、画面上で『実名交渉を申請する(実名交渉を承認する)』をクリックすると、秘密保持契約の同意画面に移ります。TRANBIが提供する契約書ではなく、個別に用意した秘密保持契約書を使うことも可能です。
トップ面談、基本合意書の締結
秘密保持契約書の締結後は、経営者同士のトップ面談に進みます。トップ面談は『顔合わせ』なので、具体的な条件交渉は行わないケースがほとんどです。相手の人柄をチェックしたり、経営理念やビジョンを確認したりして、相手との相性を見極めましょう。
顔合わせ後、条件交渉を経て『基本合意書』を締結します。譲渡価格・取引の条件・デュー・デリジェンスの協力義務・独占交渉権(他社との交渉を禁止する権利)などが記載されたもので、双方の合意を形成し、その後のM&Aを円滑に進める役割があります。
独占交渉権などの一部の条項を除いては、法的拘束力を付与しないのが一般的です。なお、スモールM&Aでは、基本合意書が省略されることも珍しくありません。
デュー・デリジェンス
基本合意の締結後に行われる買収調査は『デュー・デリジェンス(Due Diligence、DD)』と呼ばれます。具体的には、会計士や弁護士、税理士などの専門家と一緒に売り手企業を訪問し、開示された資料を一つ一つ精査します。
最終の交渉に向け、買い手は売り手の企業価値をできるだけ正確に把握する必要があります。そのためには、売り手の実態を把握し、問題点やリスクを洗い出さなければなりません。
DDは義務ではありませんが、仮に省略をした場合、M&A後に粉飾決算や簿外債務が発覚するリスクが高まります。M&Aの規模にかかわらず、DDは実施する方向で検討しましょう。
条件交渉
売り手と買い手は最終的な条件交渉を行います。『DDの結果をどのように価格に反映させるか』が争点となるでしょう。仮に、DDで多額の簿外債務が明らかになった場合、M&Aのスキームを株式譲渡から事業譲渡に変更するのも有効です。
どのような種類のM&Aでも、リスクをゼロにすることはほぼ不可能です。リスク回避の対策は必要ですが、売り手にあまり細かい要求をし過ぎてしまうと、M&Aは不成立に終わります。あらかじめ、『譲れない点』『妥協できる点』を明確にしておくことが肝要でしょう。
また、売り手企業のオーナーや従業員の処遇、譲渡代金の支払い方法などもしっかりと話し合っておく必要があります。
最終契約、クロージング
譲渡価格や条件の詳細を決定した後は、双方で『最終契約書』を締結します。最終契約書には法的拘束力があり、当事者のいずれかが契約に関する債務を履行しなかった場合、もう片方は損害賠償の請求が可能です。
最終契約書には『表明保証条項』を記載します。売り手が買い手に『開示内容が真実で正確あること』を表明・保証するもので、違反する事実が見つかれば、その損失を補償しなければなりません。
M&Aでは、目的物(経営権・所有権など)の移転を完了させる最終手続きを『クロージング』と呼びます。双方で規定した『クロージングの前提条件』を全て満たさない限り、クロージングは行われません。
最終契約書の締結時に前提条件が満たされ、かつ必要な手続きも完了していた際は、契約日とクロージングが同日になる可能性もあります。
失敗原因と対策

スモールM&Aの失敗の多くは、『経営者としてのスキル』や『従業員との関係性』に起因しています。リスクや失敗があらかじめ想定できれば、何かしらの事前対策が取れるでしょう。
経営者としての意識、スキル不足
経営経験がゼロの個人は、経営者としての意識やスキルが欠如しています。「規模が小さいし、自分でもできるのでは?」と軽い気持ちでM&Aを実行した結果、事業を軌道に乗せられず、赤字を出してしまうケースも珍しくありません。
経営者にはリーダーシップや経営上での判断力、先見性などが求められます。実務では、最低限の会計の知識やマネジメントスキル、マーケティングスキルも必要でしょう。
こうしたスキルは、実践の中で培っていくことができますが、M&Aを始める前から身に付ける努力をしましょう。
従業員の離職
M&A後に従業員が離職し、事業が回らなくなった事例もあります。とりわけ、学習塾は人材が最大の資本です。優秀な講師陣が次々と辞めれば、土地と建物しか残らなくなってしまいます。
特に、長年勤め上げてきた従業員は、オーナーが変わるとモチベーションが低下したり、反発心が湧いたりするようです。加えて、経営者としての意識やスキルが不足していれば、従業員はついてこないでしょう。
M&Aで従業員を引き継ぐ際は、一人一人との関係性を構築すると同時に、待遇面でも十分な配慮をしましょう。
まとめ
スモールM&Aは会社員でもチャレンジしやすく、M&Aの実施後はオーナーとしてすぐに事業がスタートできます。業態によっては、管理や運営を従業員に任せられるため、本業との両立も可能でしょう。
規模にかかわらず、M&Aには一連の手順があります。基本合意書の締結やデュー・デリジェンスなどは、リスクを低減させ、交渉をスムーズに進めるには欠かせないプロセスです。省略も可能ですが、一つ一つの手順をしっかり踏んでいくことが成功の鍵といえます。
初めてのM&Aには困難や失敗がつきものです。『なぜ失敗(成功)したのか』を事例から学びましょう。