
M&Aの一般的なプロセスは?準備から契約までの各過程のポイント
M&Aはいくつものプロセスで成り立っています。それぞれの過程を着実・丁寧に進めていくことが、M&A成功の鍵といえるでしょう。M&Aを『準備』『交渉』『最終契約』の三つのフェーズに分け、注意点やポイントを解説していきます。
2023-02-03
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M&Aのプロセスを理解する

M&Aは単に会社や事業の売り買いではありません。M&Aの効果を最大限に享受するには、プロセスの理解と各過程に応じた戦略の策定が重要です。M&Aの手続き方法はスキームによって異なりますが、ここでは一般的なプロセスを取り上げます。
一般的なM&Aのプロセスは?
M&Aは、『準備』『交渉』『最終契約』の三つの段階に区分され、さらに細かいプロセスに分かれます。M&Aに初めて挑戦する人は、以下の流れをしっかりと頭に入れておきましょう。
【準備】
- 目的の明確化と戦略の設定
- M&A主体者の決定(外部委託もしくは自らが実行)
- M&Aの案件探し・マッチング
【交渉】
- トップ面談
- 条件交渉
- 基本合意書の締結
- デュー・デリジェンスの実施
- 最終交渉
【最終契約】
- 最終契約の締結
- クロージング
プロセスは順調に進む場合もあれば、交渉やトラブルの発生により長引くケースもあります。相応のコスト・期間がかかることを想定し、十分な余裕を持つようにしましょう。
準備段階の流れとポイント

M&Aに成功する企業や個人の多くは、事前準備に重きを置きます。M&Aの目的や方向性が定まらないまま次のプロセスに進んでも、望む結果が得られないためです。準備段階の流れと成功のポイントを解説します。
目的の明確化と基本方針の決定
準備段階では、M&Aの目的を明確にし、方向性を定める必要があります。M&Aは手段でありゴールではありません。まずは自社分析を実施し、自社の強みや補強したい部分などを洗い出しましょう。
『なぜM&Aでなければならないのか』『M&Aを通して何を得たいのか』『いつまでに実行するのか』を決めることで、適切なスキームやターゲット像が見えてきます。M&Aの実現可能性や成功確率を測るための、市場調査と分析も欠かせません。
M&A主体者の決定(外部委託か自らが実行)
M&Aの目的や戦略が定まったところで、M&Aを誰が主体となって進めるかについて決定します。
M&Aの経験がない方の場合、仲介業者やファイナンシャル・アドバイザー(FA)に依頼する場合があります。本業とM&Aを並行して進めることを考慮すると、時間的な側面から専門家のサポートを得るのが望ましい場合があります。案件の発掘はもちろん、スケジュールの調整や手続きに関するアドバイスもしてくれます。
ただし外部委託する際には数百万円~数千万円の高額な手数料を支払う必要があります。仲介業者やアドバイザーは、得意とする業界・取引規模・業務範囲・契約方法などが異なるため、複数社を比較・検討しましょう。
金融機関のM&A部門や商工会議所、日本政策金融公庫などでもM&Aの支援を行っています。中小企業や小規模事業者の事業承継型M&Aについては、国の公的相談窓口である『事業承継・引継ぎ支援センター』に相談するという選択肢もあります。
一方で、費用を安く抑えたい・スピーディーに交渉を進めたいという場合には、自らの力だけで進めることも可能です。近年M&Aプラットフォームの台頭により、ある程度の知識や行動力がある方は自分の裁量でM&Aを最初から最後まで管理するという方が増えてきています。
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M&Aの相手候補の調査・決定
目的や相手に求める条件が決まったら、合致する相手の候補先をM&A仲介業者やアドバイザーにリストアップしてもらう、もしくはM&Aプラットフォームを通じて自らが探すことを行います。ターゲット選定のプロセスでは、一定の基準に基づいて相手企業を数社~100社ほど選定し、そこからさらに細かい条件で絞り込んでいくのが一般的です。
ターゲットを数社に決めた後は、相手企業の情報を収集・分析した上で最適なスキームを決定します。優先度の高い企業から順番にアプローチ方法を考えましょう。
買い手の場合、売り手候補の概要が匿名で記された『ノンネームシート』を見てまずは検討を行います。候補先の詳細情報を入手したい場合は、売り手と買い手との間で『秘密保持契約書(NDA)』を締結するのが通例です。
M&Aのスキームの種類については、以下のコラムを参考にしてください。

交渉段階の流れとポイント

交渉フェーズは大きく『基本条件の交渉』と『最終条件の交渉』に分かれます。交渉プロセスが分かれているのは、買い手によるデュー・デリジェンス(買収調査)によって、売り手に対する評価が変わる可能性があるためです。具体的な流れを確認しましょう。
トップ面談と条件交渉
交渉を打診した相手先から反応があった場合、経営者同士のトップ面談を行います。
初回のトップ面談では細かい条件交渉は行わず、相手の人となりや考え方を把握することに努めます。互いに質問をしながら、ビジョンや価値観、企業文化などに対する理解を深めましょう。
トップ面談の後は、追加資料を準備して交渉に臨みます。初回のトップ面談とは異なり、M&Aのスキームや従業員の待遇、取引金額などの基本条件を取り決めます。
交渉で合意した内容に基づき基本合意書を交わすため、納得がいくまで話し合いをしなければなりません。
基本合意書の締結
M&Aの大枠が決まった段階で『基本合意書』を締結します。双方の合意形成と今後のスケジュールの確認が主な目的で、法的拘束力は持たせないのが一般的です。
ただし、自社都合で内容を変更する際には、相手が納得できる合理的な理由が必要な点に留意しましょう。
内容には、M&Aのスキームや取引金額のほか、売り手に対するデュー・デリジェンスへの協力義務や独占交渉権などが盛り込まれます。
『独占交渉権』とは、買い手が売り手と独占的に交渉できる権利です。買い手に独占交渉権を与えた場合、売り手は買い手以外の他社と交渉ができません。
独占交渉権の条項には法的拘束力を付与するのが一般的で、違反した場合は法的責任を問われます。拘束期間は交渉により自由に決められますが、60~90日前後が目安といえるでしょう。
デュー・デリジェンス(DD)
基本合意書を交わした後、買い手が売り手に対して『デュー・デリジェンス(以下DD)』を実施します。売り手の企業価値を適切に把握するためのプロセスで、自社とのシナジー効果を確認したり、隠れたリスクを洗い出したりする目的もあります。
DDの範囲は多岐にわたりますが、中小企業の場合は税務面・財務面・法務面に重点が置かれます。M&Aの目的や業態によっては、技術DDや不動産DDなども必要になるでしょう。
費用は買い手が負担するのが一般的です。売り手の協力の下、弁護士・公認会計士・税理士などの専門家と連携しながら作業を進めていきます。
期間は取引規模や調査範囲によって異なりますが、実地調査に数日、レポート作成に1~2週間以上かかると考えておきましょう。
契約段階の流れとポイント

M&Aの終盤では、最終交渉と最終契約の締結が行われます。最終契約を交わした後は後戻りができないため、M&Aプロセスの中では最も重要なフェーズといえるでしょう。
最終契約の締結
DDの実施後は、結果を踏まえた最終的な条件を交渉します。課題やリスクが見つかった際は、スキームの変更や譲渡価格の再調整などで対処しますが、リスクの程度によってはM&Aの中止もあり得るでしょう。
交渉がまとまれば、最終契約を締結します。契約書の名称は、株式譲渡であれば『株式譲渡契約書』、事業譲渡であれば『事業譲渡契約書』です。法的拘束力を有するため、契約内容に違反した当事者には、損害賠償請求が行えます。
内容には、譲渡金額やスキーム、従業員の処遇などのほかに、以下のような条項が盛り込まれます。
- 表明保証
- クロージングの前提条件
- 誓約事項
- 誓約事項に違反した場合の補償内容
- 競業避止義務
契約書の重要条項については、以下のコラムで詳しく解説しています。
M&Aで契約書を締結するタイミングは?特に理解しておきたい項目も
クロージング
M&Aでは、最終契約書の締結がM&Aの成立ではありません。売り手から買い手に経営権を移行するか、あるいは事業譲渡において資産の譲渡や契約の移管等のための手続きが取られた形で『クロージング』を経ると取引が完了します。
株式譲渡では、譲渡対価の決済や株式の引き渡し、株主名簿の書き換えなどを行います。事業譲渡の場合は、売り手が持つ権利義務を個別に承継する手続きが必要です。
そもそも、クロージングには前提条件があり、すべての条件が充足されない限りは取引実行がなされません。売り手側には多くの条件が求められるため、クロージングに向けた準備は早めに着手しましょう。以下は条件の一例です。
- 重要な取引先から取引継続の同意を得ること
- 業務上必要な許認可を取得すること
- 未払い残業代を精算すること
M&A完了後の統合プロセスの重要性

M&Aのプロセスはクロージングで一区切りとなりますが、買い手にとってはここからが本番です。クロージング後は迅速に『統合プロセス』へと移行し、M&Aで混乱する社内をうまくまとめ上げなければなりません。
統合プロセス(PMI)にも力を入れる
『統合プロセス』は『Post Merger Integration(PMI)』と呼ばれます。買い手主導の新経営体制を迅速に構築し、M&Aのシナジー効果を最大限に発揮させることが主な狙いです。
PMIは、経営面・業務面・意識面の三つの段階で構成されます。
- 経営面:ビジョン・経営戦略・マネジメント手法などの統合
- 業務面:情報システム・事業拠点・業務フローなどの統合
- 意識面:企業文化・価値観などの統合
PMIを実行するにあたり、半年以内に行う全体的な統合計画である『ランディング・プラン』と、その中でもより重要度の高い課題を解決するための『100日プラン』を策定します。社内でプロジェクトチームを編成し、計画の進捗状況を把握しながら進めましょう。
PMIがうまく実行されない場合、通常業務に支障をきたす恐れがあります。新たな経営体制になじめない従業員の離職が相次いだり、業務の生産性が低下したりして、会社全体が混乱に陥るかもしれません。
M&Aをスムーズに進めるためのポイント

M&Aには多数のプロセスがあり、どのプロセスも手を抜けない重要なものばかりです。限られた時間の中でM&Aを円滑に進めるためには、何を意識すればよいのでしょうか?
条件の明確化と優先順位付けをしておく
M&Aの案件発掘では、自社の希望に100%合致する相手が見つかるとは限りません。『絶対譲れない条件』『あると望ましい十分条件』『譲ってもよい条件』を明確化し、さらに優先順位を付けておくのが望ましいといえます。
絶対譲れない条件を曲げるのは論外ですが、理想の相手が見つからない場合は条件のハードルを徐々に下げていくことも検討しましょう。
取引価格についても、ここまでなら許容できるという『最低ライン』を設けておき、相手の反応を見ながら柔軟に対応していく姿勢が求められます。
M&Aに関する情報管理を徹底する
M&Aでは企業の機密情報をやりとりします。第三者に情報が漏えいすると、M&Aの成功が遠のくばかりか、法的責任を問われる恐れがあるでしょう。
情報が漏れないように管理体制を見直すと同時に、M&Aの実施を社内外に告知するタイミングにも配慮しなければなりません。情報漏えいを防ぐ具体策としては、以下が挙げられます。
- (相手の)経営者のメールアドレスを秘書や総務担当者と共有しない
- 情報の開示前には『秘密保持契約書』を締結する
- ノンネームシートには会社特定につながる詳細情報は記載しない
- 関係者には、情報漏えい時のペナルティーをしっかりと説明する
- 社内の会議室で打ち合わせを行わない
利害関係者の把握と調整にも尽力する
M&Aの成否は、利害関係者の賛同をどれだけ多く得られるかにかかっています。取引先や従業員、金融機関に対しては説明の場を設け、それぞれに適切なタイミングでM&Aの意義や経緯を説明する必要があります。
株式会社は出資した株主のものであるため、経営者同士が意気投合しても勝手に契約を交わすことはできません。
株式譲渡で経営を掌握するには、株主が保有する議決権の2/3以上を獲得する必要があります。持ち株比率の高い株主が反対すれば、M&A成立はかなわない点を覚えておきましょう。
まとめ
M&Aはいくつものプロセスで成り立っています。目的や方向性を決めた上で、それぞれのプロセスを着実に実行していくことが、成功への近道といえるでしょう。
M&Aに手慣れた企業や個人であっても、専門家のサポートや客観的なアドバイスは欠かせません。頼れる専門家を見つけ、相談するところからスタートしましょう。