2024-11-12
0円で家族経営の温泉を売却!「町の温泉から観光客を呼ぶ施設へ」買い手様に託した夢
売り手(法人):株式会社白神

<中小企業のM&A・事業売却事例>
- ➤ 温泉の管理・運営を手掛けられる後継者がいない…事業売却を決意
- ➤ 修繕にも大幅な費用が掛かるため、譲渡金額は0円に
- ➤ 「温泉の事業譲渡」はレアケースで確認事項も多いため、8か月間を掛けて契約
- ➤ 富裕層・外国人観光客向けに、3,000万円以上を掛けて大幅リニューアル
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町にある、源泉掛け流しの日帰り温泉「海のしずく」。地元の人や観光客から愛される温泉でしたが、運営者が高齢で体が不自由になったことから、事業売却を決めます。
10年ほど家族で経営してきた大切な温泉だからこそ、「熱意があり」、「事業を発展させて、この先も長く続けてくれる」人に託したいという思いで交渉に臨んだ結果、ぴったりの買い手様に出会うことができました。
買い手様の熱意が伝わるエピソードや0円で事業譲渡した理由、これから改装を行う海のしずくへの期待や買い手様に託した夢について、海のしずくの運営主体であった、株式会社白神の成田さんにお話を伺いました。
【温泉の管理・運営を手掛けられる後継者がいない…事業売却を決意】
- 今回売却した、「海のしずく」という施設の概要について教えてください。
「海のしずく」は、青森県西津軽郡鰺ヶ沢町にある、地域では数少ない源泉掛け流しの日帰り温泉です。
鰺ヶ沢町という地名に馴染みのある方は少ないかもしれませんが、青森駅からリゾートしらかみに乗って日本海側へ2時間弱、車だと1時間強走ったところにある人口1万人弱の小さな町で、世界自然遺産である白神山地の一部を構成する自然豊かな町です。海のしずくは、鳴沢駅から車で10分ほどのところにあります。
大人370円、子供170円という手頃な料金にしていたので、若い方からお年寄りまで地元のお客様が多かった一方で、冬はスキー、夏は青森ねぶた祭に訪れた国内や海外の観光客の方の利用もありました。
- 海のしずくが設立された経緯と、売却前の運営体制も教えていただけますか。
海のしずくは、私たち家族で出資をし合って経営していました。
ただ、私たちが立ち上げたわけではなく、もともとは別の方が運営していました。資金上の理由から、前任者が運営を続けることが困難になったために、私のところに譲渡の話が来ました。
そこで大の温泉好きだった私の祖父に一緒に出資して店舗責任者をやってくれないかと伝え、乗り気になって引き継いだという経緯があります。
引き継いでから10年ほどになりますが、基本的には祖父がメインでお客様対応や金銭管理などの運営全般を担当していました。従業員の方に簡単な掃除をお願いしたり、私や父や家族が、それぞれ手が空いたときに手伝ったりという感じでした。
- どれくらいのお客様がいらっしゃっていたのですか。
以前は、平日で1日平均100名、土日には130~150名ほどのお客様に来ていただいていました。しかし、2年ほど前にサウナが故障してからは、お客様が減ってしまって。最近は、平日で60名ほど、土日でも多くて100名ほどの利用にとどまっていました。
- 長く家族経営してきた温泉を、どうして譲渡することにしたのですか。
一番の理由は、祖父が事故に遭い、体が不自由になってしまって、運営を続けることが困難になったからです。 91歳と高齢だったので、年齢を重ねるにつれて、日々の掃除や肉体労働が負担になってはいたようなんです。
けれど、毎日入るほど温泉が好きな人なので、自分で運営をしたいという思いが強くて。なんとか続けていたものの、さすがに体が不自由になってしまっては難しいなと。
海のしずくの運営主体である株式会社白神の代表は私なので、継ぐことができれば一番よかったのでしょうが、普段は海外で仕事をしているため、鯵ヶ沢に戻って温泉を運営することは難しくて。
ただ、温泉を続けたいという思いはあったので、「他の人に譲渡して、運営していただくことがベストだ」と事業譲渡を決めました。

(海のしずく①)
【修繕にも大幅な費用が掛かるため、譲渡金額は0円に】
- どのような方にお譲りしたいと考えていましたか。
やはり「海のしずくが長く続いてほしい」という思いが強いため、さらに魅力ある温泉施設に改革して、事業を伸ばしていただける方に託したいと思っていました。
あとは、家族で運営してきた温泉施設で思い入れもあるので、熱意のある方でしょうか。交渉では実際にお会いして話すことで、その方の人となりを知ることを大切にしていました。
- 事業を一般公開しての反響はいかがでしたか。
もう最初から結構な数の交渉が来ましたね。これはすぐ決まりそうだなっていう感覚はありました。
- 今回の買い手様とのエピソードや譲渡を決められた理由を教えていただけますか。
買い手様から問い合わせが来たのは、掲載してから2か月後の2024年1月です。メッセージのやりとりをしたところ、翌日に施設見学に来てくださいました。
ちょうど1月から海のしずくの営業はストップしていたので、お湯が入っていない空の温泉や施設を案内したのですが、買い手様は視察をしながら「ここをこういう風に改装すればいいのでは」というアイデアやイメージが膨らんだようで、その日に「買います」と即決して、着手金20万円を振り込んでくださったんです。
買い手様は東京在住の投資家の方で、株式投資や事業投資を多く手掛けている方ですが、もともと温泉の運営にも興味があったようで。
何より、視察してすぐに改装のイメージが湧いている様子から真剣さが伝わりましたし、ビジョンや改装イメージを聞いたときに、「この方に託せば、海のしずくが発展する」と確信できたので譲渡を決めました。
- 譲渡金額はどのように設定されましたか。
着手金20万円と、土地や建物や設備の賃借料として月額15万円は払っていただきますが、事業の譲渡金額は0円にしました。
というのも、温泉は私たちが引き継いでから10年以上が経っており、どうしても老朽化が進んでいて。
これからさらに発展させていくためには修繕が必要でした。修繕には大きな金額が掛かるため、それにプラスして譲渡金額まで設けてしまうと、買い手様の負担も増してしまいます。そのため、0円としたのです。
私としては、温泉を修繕してしっかり発展させていただき、賃借料さえ支払っていただければ十分だと思っていました。

(海のしずく②)
【「温泉の事業譲渡」はレアケースで確認事項も多いため、8か月間を掛けて契約】
- 契約の締結を進めるうえで、特別に盛り込んだ条項などはありますか。
事業譲渡後、万が一経営が立ち行かなくなった際に、買い手様が別の方に売却をされることは望んでいなかったので、「事業継続が困難と判断された場合は、私たちに事業を返していただく」といった内容は、弁護士と相談しながら特別に契約書に盛り込みました。
- 経営が悪化した事業が手元に返ってくるよりは、今回の買い手様から次のオーナーの手に渡った方が良いでしょうし、賃借料さえ支払っていただければ成田さんとしても問題ないようにも思うのですが、そうした条件にこだわったのはどうしてですか。
おっしゃる通り、そうした見方もできると思います。しかし、こればかりは合理的かどうかやメリットデメリットでは割り切れない、気持ちの問題で。
家族経営をしてきて、祖父が大切にしてきたこの温泉を、私は今回の買い手様だからこそ信頼して譲渡したわけです。だからこそ、そこから私が知らない方の手元へと事業が渡っていく状況は、あまり好ましくなくて。
それなら、もう一度手元に戻していただいて、自分たちで再生する方がいいなと。
もちろん、今回の買い手様が海のしずくを発展し続けてくれるだろうと期待しているので、現時点でそうした不安を感じているわけではありませんが、契約には盛り込ませていただきました。
- ちなみに、買い手様が事業を買うと決めてから、正式な成約に至るまでに8か月ほどが掛かったようですが、交渉が長引いたのはどうしてですか。
先ほどお話しした、「万が一の場合はこちらの手元に事業を戻せるか」といったところのすり合わせであったり、補助金や融資の申請や権利関係の確認、契約書の締結などに時間が掛かったからです。
補助金や融資に関しては、まず買い手様が細かい修繕計画を立てて見積もりを取った上で、事業計画書などとあわせて自治体や銀行に申請されました。
融資に関しては、私が懇意にしている銀行で難なくおりたようですが、自治体の補助金の方は二転三転した結果、結局おりなかったようで。その辺りの申請や確認に時間が掛かってしまったようです。
権利に関しては、温泉を運営するために必要な、特殊な権利関係の確認が必要でした。
私も買い手様も初めてのことでしたし、温泉の管理者が変わることや「不動産は自社で保有していて、温泉だけ譲渡する」というケースは保健所にとってもレアだったようで、説明用の資料の用意などにも時間が掛かってしまいました。
また、お互いに弁護士を立てて契約書の作成を進めていましたが、弁護士の方も温泉の譲渡に携わった経験はなかったため、関連する法律を調べて、契約内容を慎重に確認しながら詰めていったこともあって、時間が掛かったのかなと思います。
- 温泉の譲渡はあまりないケースであり、関係者の方が皆さん慣れていなかったことも、時間が掛かった要因だったのですね。
そうですね。それに加えて、私も海外と日本を行き来する日々でしたし、買い手様も東京から青森へ都度足を運んで補助金申請などの準備を進めていたので、そうした距離があったことで、ゆっくりになってしまった部分もあるかと思います。
ただ、先に賃貸借契約だけは締結していて、買い手様は購入を決断してくださった翌月から賃借料を支払ってくださっていました。
そのため、焦らずに安心して交渉を進めることができました。疑問点を潰しながら納得してM&Aを進めることが大切だと思っていますし、後からトラブルが起きることを防ぐためにも、時間を掛けてよかったと思っています。

(海のしずく③)
【富裕層・外国人観光客向けに、3,000万円以上を掛けて大幅リニューアル】
- ようやく契約も締結して、買い手様はこれから改装に取り掛かるというフェーズなのでしょうか。
そのようですね。温泉を休業後、私から設備屋さんに依頼をして、機械のメンテナンスをひと通り行った後は、買い手様に温泉施設の鍵をお渡ししていたので、定期的に足を運んでは改装計画を進めていたようです。
メインの大浴場をがらっと変えたり、サウナを新しくしたりといった目立つ改革から、シャワーの水圧を強くするといった細部のリニューアルまで、3,000万円以上を掛けた大幅な改装を行う予定のようです。
- がらりと新しくなることに対して、抵抗はありませんか。
まったくありません。それどころか、私個人としても、もともと「発展のためには大幅に変えるべき」という思いがあって。
買い手様と初めてお会いしたときから、「ここをこう変えたいんですよね」「私もそう思っていました」というように意気投合したので、改装をとても楽しみにしています。
買い手様が作成された、温泉の完成イメージをまとめた資料も拝見しましたが、「鯵ヶ沢は北海道・ニセコのようなポテンシャルを秘めている」というコンセプトで、外国人観光客や富裕層をターゲットにした施設にしていきたいというビジョンが語られていて、とてもわくわくしました。
- 最後に、これから事業売却を検討している方に向けてアドバイスをいただけますか。
金額だけにこだわって譲渡先を選ぶのではなく、自分たちが育ててきた事業をより良く発展させてくれる方に託すべきだということでしょうか。
「お金」の観点を一旦抜きにして、「事業をどのように伸ばしてほしいのか」「どのような人に託したいのか」を考えてみたうえで、条件に合う人に譲渡することが、事業売却が成功するためのポイントだと思います。
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■今回売却・譲渡した案件はこちら
「【ほぼ自走可能】銭湯あり!サウナあり!民泊あり!の事業譲渡」
■海のしずくに関する情報はこちら
https://yu-dokoro-uminoshizuku.jimdofree.com/
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